うちの研究室の学生さん2名が修士論文を無事に提出しました。2年間の研究生活、おつかれさまでした。以下にそれぞれの修士論文のタイトルと概要を載せておきます。(過去の修士論文指導については、こちらを参照してください)
前田悠陽「原始惑星の衝突進化計算と化学平衡計算を用いた、地球形成シナリオの検討」
地球をはじめとする岩石惑星(Rocky Planet)は、原始惑星系円盤(Protoplanetary Disk)において固体物質の降着・集積によって形成される。そして、その形成過程は、粒子のサイズや、集積の様相により特徴づけられる。それぞれの成長段階の中でも、とりわけ最後期に位置づけられる原始惑星(Protoplanet)同士の巨大衝突段階(Giant Impact)において、原始惑星の表層環境は現在とは大きく異なる。降着に伴う重力エネルギーの解放により、原始惑星の表面は溶融状態にあったと考えられる。成長した原始惑星は、原始惑星系円盤のガスを捕獲し、水素に富む原始大気を形成する。原始惑星内部では、溶融状態のマグマオーシャンと鉄コアの重力分離が起こり、表面の原始大気と合わせて、鉛直方向に3つの層構造があらわれる。この層の間で物質のやりとり(化学平衡反応)が生じることで、原始惑星の化学的な特性が形作られた。その後、表面のマグマは冷却・固化し、原始大気も最終的には内部からの脱ガス由来の2次大気に取って代わられた。本研究では、原始惑星(そして、その中の原始地球)の表層環境の特性をもとに、地球の形成過程を明らかにすることを目指す。筆者は、まず原始惑星が巨大衝突を起こし惑星に成長する過程をN体シミュレーションを用いて計算した。このとき、原始惑星は、自身の重力圏にある円盤ガスを大気として獲得する。同時に、巨大衝突を経験した原始惑星のマントル部は完全溶融し、大気-マントル-コアの層構造を物質が移動できるようになる。そして、この層構造に対して化学平衡計算を行い、N体シミュレーションの結果と接続・統合した。本研究における重要な観測的制約は、コアの密度欠損であり、現在の地球のコアは、純粋な鉄より低密度であることが知られている。本研究では、最終的に形成される惑星の個数、現在の地球軌道付近に形成される惑星の質量、コア密度欠損を比較し、現在の地球と整合するか検証した。計算の結果、原始惑星が地球サイズに成長するまでに経験する多段的な巨大衝突が、円盤ガスの散逸度に応じて異なる描像を与えることを明らかにした。初期の巨大衝突は、散逸前のガスに富む円盤内で起こるため、原始惑星は過剰量の水素を内部のコアに取り込む。その後、過剰量の水素を取り込んだ原始惑星と、水素の汚染されていない原始惑星の後期の巨大衝突によって、コア中の水素量が調節され、現在の地球と整合的な組成が得られる。原始惑星系円盤ガスの振る舞い(原始惑星形成時点でのガス面密度、ガス散逸のタイムスケール)には不定性があるが、観測的な制約に基づくパラメータ範囲内では、計算結果は類似した傾向を示す。これは第一に、原始惑星が過剰量の円盤ガスの中にあるときは、コアに取り込める水素量に限界があるために、化学平衡が飽和に達すること、第二に、最終的に地球サイズの惑星を実現する巨大衝突は円盤ガスの散逸後に起こることに起因する。
若森大地「Magnetic Braking を経て形成された岩石微惑星集団による惑星形成」
微惑星形成は原始惑星形円盤内でダストが集積し、Streaming Instability や重力崩壊によってダストの成長がうながされ、形成されると考えられてきた。また、近年の研究によってこの微惑星形成はsnow line 周辺でうまく発生することもわかった。しかし、snow line 周辺で氷微惑星形成と同時に、岩石微惑星の形成も求められる。これは同位体比や酸化状態の異なる鉄隕石の母天体が太陽系形成初期に同時に行われたという観測結果によるものである。そこで本研究の先行研究であるMorbidelli らの研究では、原子太陽系円盤を模した星雲から円盤への物質降着と円盤進化を考えることで、これら2 種の十分量の微惑星が同時期に形成が可能であることが示された。本研究ではこの研究結果をもとに微惑星を配置し、惑星N 体計算コードGPLUM を用いたN 体計算によってどのような惑星が形成されるのかを岩石惑星に注目して研究した。本研究ではガスと微惑星、惑星との相互作用も考慮し、gas drag やtype-1 migration を組み込んでいる。計算の結果、まずはじめに2-4 個の地球サイズの惑星の形成が確認された。しかし、type-1 migration を考慮した場合、これがそのまま惑星系を形成することはなく、中心星へと落下していった。残った微惑星から作られる第2 世代の惑星が形成され、これと残った第1 世代の惑星が最終的な惑星を形成することがわかった。今回の計算では初期質量が5M⊕ と現在の太陽系と比較して過剰であるため、この中心星への落下によってちょうど過剰な質量を抜くことが可能であることは太陽系再現に有利に働く。このような結果から、Moribidelli らの研究で示された質量5M⊕ のRing 状微惑星群から太陽系の岩石惑星程度の質量だけをうまく残すことができるということがわかった。また、migration の速度や初期質量によってはsuper earth などの形成も見込まれることからmagnetic braking を経た微惑星集団から多様な惑星系を作ることができることも判明した。しかし、残留質量はある程度一致するようなパラメータがある一方で、そのパラメータで計算をした際に惑星のサイズと配置が現在のものと整合的でなくなってしまうという、先行研究による太陽系再現に不利な要素が出てきた。これらの矛盾は本研究の計算設定に改善の余地があり、それによって解決されるのではないかと考えられる。
Leave a Reply