天王星は、自転軸が約98度も傾いている非常に特異な惑星である。太陽系の他の惑星は、太陽の周囲を公転する面に対して比較的小さな傾きしか持たないが、天王星だけはほぼ「横倒し」の状態で自転している。さらに、その周囲を公転する主要衛星の軌道面も天王星の赤道面とほぼ一致しており、この奇妙な姿がどのように形成されたのかは、長年にわたる惑星科学最大級の謎の一つとなっている。
この問題に対する有力な仮説が、「巨大衝突説」である。原始天王星に地球数個分規模の巨大天体が衝突し、その衝撃によって天王星の自転軸が大きく傾けられたと同時に、周囲へ大量の物質が放出されたというシナリオである。そして、その放出物質が天王星周囲で円盤を形成し、最終的に現在の衛星系へと成長したと考える。
本研究では、この巨大衝突による衛星形成シナリオを検証するため、SPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法を用いた大規模数値シミュレーションを行った。特に焦点を当てたのは、「EOS(状態方程式)」と呼ばれる物質モデルの違いである。EOS は、岩石・氷・ガスといった物質が高温・高圧状態でどのような密度や圧力を持ち、どのように変形・蒸発するかを決定する。巨大衝突では惑星物質が部分的、あるいは完全に蒸発するため、EOS の選択はシミュレーション結果に極めて大きな影響を与える。しかし、これまでの研究では用いる EOS や数値手法が異なっており、その結果として、どれだけの岩石が衛星形成円盤へ放出されるかという重要な予測が研究ごとに大きく食い違っていた。
そこで本研究では、3種類の EOS と2種類の SPH 手法を体系的に比較し、どの物理量がモデルに依存し、どの物理量が比較的頑健なのかを詳細に調べた。シミュレーションでは、現在の天王星の自転状態を再現できるような複数の衝突条件を用い、形成される円盤の質量・大きさ・岩石量などを比較した。

高角運動量衝突における巨大衝突の時間発展。衝突直後には、インパクター由来の物質がアーム状構造として大きく引き伸ばされ、その一部が天王星周囲円盤へ供給される。高角運動量衝突では、衝突天体の岩石コア成分も外側へ放出されやすくなることが分かる。
その結果、形成される円盤の「総質量」や「典型的な広がり」は、EOS や SPH 手法によらず比較的一貫しており、主に衝突時の角運動量によって決まることが分かった。つまり、どれぐらい大きな円盤ができるかというマクロな性質については、巨大衝突モデルは比較的頑健である。一方で、円盤中にどれだけの岩石成分が含まれるかは EOS に極めて強く依存することが明らかになった。ある EOS では、現在の天王星衛星と同程度の岩石割合を持つ円盤が形成される一方、別の EOS ではほとんど氷主体の円盤しか形成されなかった。

形成円盤中の岩石・氷成分の比較。横軸は衝突の角運動量を表す。EOS の違いによって、円盤へ放出される岩石量が大きく変化しており、特に Tillotson EOS では高角運動量衝突において岩石に富んだ円盤が形成される。一方、SESAME/ANEOS では岩石放出が抑制され、氷主体の円盤となる。
さらに解析を進めた結果、この違いは単なる数値誤差ではなく、各 EOS が与える原始天王星内部の密度構造の違いに起因していることが分かった。特に、岩石コアと氷マントルの境界がどれほど急激かによって、巨大衝突時に岩石がどれだけ外側へ引きずり出されるかが大きく変化する。つまり、天王星衛星系の組成を理解するためには、衝突そのものだけでなく、惑星内部構造や高温高圧下の物質科学を正しく扱うことが不可欠であることを示している。
また本研究では、SPH 数値手法そのものによる影響についても詳細に比較した。近年の巨大衝突シミュレーションでは、接触境界の扱いに起因する数値的問題が重要視されている。本研究では従来型 SPH と改良型 SPH の双方を比較することで、どの結果が数値手法に敏感で、どの結果が比較的安定かを整理した。特に、研究ごとに予測される岩石量がなぜこれほど異なるのかという問題に対して、その主要因の一つが EOS の違いにあることを体系的に示した点は、本研究の重要な成果である。
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Keiya Murashima & Takanori Sasaki, Dependence on the Equation of State in SPH Simulations of Proto-Uranian Disk Formation from a Giant Impact, The Astrophysical Journal, in press. [arXiv]

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