地球型惑星の形成過程では、現在の惑星とは著しく異なる表層環境が想定される。原始惑星は集積による重力エネルギーの解放によって全表層が溶融し、マグマオーシャンを形成する一方、十分に質量を持つ原始惑星は原始惑星系円盤から水素に富む原始大気を捕獲する。このような条件下では、大気・マグマオーシャン・鉄コアの三層間における化学平衡が進行し、惑星内部組成や揮発性元素の保持量が決定される。本研究は、この原始的環境を考慮した地球型惑星形成の描像を構築するために、原始惑星の軌道進化と衝突成長を追跡する N 体シミュレーションに、各巨大衝突時の地球化学的平衡計算を逐次的に組み込むという統合的手法を採用した。

初期状態では 21 個の原始惑星が相互の重力相互作用によって衝突・合体し、最終的に数個の岩石惑星を形成する。一方で、原始惑星系円盤のガスは時間とともに指数関数的に散逸する。円盤の条件や大気を捕獲できる質量閾値に応じて、巨大衝突が繰り返しマントルを溶融させ、化学平衡を引き起こす。
シミュレーションでは、初期に配置した約 0.1 地球質量の原始惑星群(合計で約 1.9 地球質量)が、数千万年にわたり相互重力作用によって軌道を不安定化させ、最終的に複数の地球型惑星へ成長する過程を再現した。その過程で、巨大衝突は初期(円盤ガスが豊富に存在する段階)と後期(円盤ガスが散逸した段階)におおまかに二分されることが明らかとなった。初期の巨大衝突では、原始惑星が周囲から大量の水素を含む原始大気を捕獲し、それがマグマオーシャンや鉄コアと反応して水生成、鉄の酸化、さらには水素の鉄コアへの分配を引き起こす。このときコアに過剰な水素が取り込まれ、純鉄に比べて 10%以上の核密度欠損を生じる。一方、後期の巨大衝突では円盤ガスがほぼ消失しており、新たな大気を捕獲することができないため、衝突によって既存の大気が失われても再供給は起こらない。しかしその代わりに、水素に富む原始惑星と水素に乏しい原始惑星との衝突によって水素量が希釈され、過剰なコア密度欠損が緩和されることが確認された。この過程により、最終的に地球コアの観測値(約 7.5–10% の密度欠損)と整合する惑星が形成され得ることがわかった。

原始惑星の軌道進化と、コアの密度欠損および大気中の水含有量の変化。内側領域における初期の巨大衝突では、合体後の質量が大気捕獲の閾値を下回るため、大気獲得には至らない。コアの密度欠損は多段階的に進化する。地球のコア密度欠損値に近い惑星が得られた例として、最終質量 0.871 M⊕、核密度欠損 8.68%、最終軌道半径 1.085 AU の惑星が形成された。
さらに、化学平衡計算を通じて、初期大気中の水素量が 0.2–0.3 wt% を超えると、鉄コアへの水素移行は飽和的となり、それ以上の水素を保持できないことが示された。過剰な水素は大気として残存し、後続の巨大衝突で除去されるが、その際に一部の水素は鉄コアから大気へ戻る「再平衡」も確認された。ただしこの効果は限定的であり、コア密度欠損を最大でも 1–2% 程度しか減少させないため、地球型組成を得るには後期衝突による希釈過程が不可欠である。水生成に関しても、マグマオーシャン中で放出された酸素と大気中の水素との反応が主要な寄与を示したが、生成量は地球の海洋全量を説明するには不足しており、外来水供給など他のメカニズムと併せて考える必要があることが示唆された。
本研究の統合的アプローチは、軌道力学的進化と地球化学的進化を一体的に扱うことにより、従来は分断的に研究されてきた惑星形成像を接続し、地球型惑星の内部構成・酸化還元状態・水素収支が、巨大衝突と円盤ガス散逸の時間関係によって制御されることを明らかにした。特に 1 AU 近傍においては、原始惑星系円盤ガス散逸後の後期巨大衝突が、地球コアの密度欠損や水素含有量を現在の地球と整合させる決定的な役割を担うことが示された。これにより、地球のような揮発性元素組成を持つ惑星の形成条件が明確化され、今後の高圧実験や数値モデル、系外惑星観測との比較に資する新たな理論的基盤が提供されたといえる。
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Haruya Maeda & Takanori Sasaki, Multiple Giant Impacts and Chemical Equilibria: An Integrated Approach to Rocky Planet Formation, The Planetary Science Journal, 6, 239(24pp) (2025) [pdf]

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