内部海を持つ氷衛星の3次元シミュレーションに向けたSPH法の改良

氷衛星の内部には液体の水の層が存在する可能性があり、その起源や進化を探ることは、生命居住可能性の観点からも重要である。氷衛星の内部構造を正しく解くためには、潮汐加熱、熱伝導、放射冷却、および氷と水の相転移などをモデル化する必要がある。しかし、従来のSPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法では、粘性項による非物理的な力や粒子層構造におけるエネルギー分配の人工的な問題が発生することが明らかになった。そこで本研究では、氷衛星の内部構造と熱進化を三次元的に再現するため、SPH法の改良を行った。

粘性項については、従来の速度差に基づく定式化では回転運動を阻害する非物理的な力が発生する問題が見つかったため、速度勾配に基づく新しい式を導入することで解決した。また、Density Independent SPH(DISPH)を導入することで、自由境界や接触不連続面における粒子挙動が改善され、従来法で問題となっていた層状のエネルギー分布が解消され、内部のエネルギー分配をより現実的に表現できるようになった。さらに、放射冷却を導入するため、粒子の空間座標と重心からの距離を利用して「表面粒子」を特定するアルゴリズムを設計し、これらの表面粒子について黒体放射に基づく熱放散を計算する手法も確立した。以上の改良により、表面温度の分布や時間変化が定量的に評価できるようになり、氷衛星内部の液体海洋の構造や進化をシミュレートするための包括的なSPHコードが完成した。

従来の粘性の定式化では回転を妨げる非物理的な力が生じたが(左)、新しく導入した粘性の定式化を用いることで非物理的な力を消すことに成功した(右)。

将来的には、水と氷の相転移を考慮したAQUA-EOSの導入などによって内部海と氷殻の境界領域をより正確に表現し、エウロパやエンケラドゥスといった実在の氷衛星に適用した計算を行う予定である。これにより衛星の軌道要素や質量、軌道傾斜角などを変化させたパラメータスタディを行うことで、内部海形成や熱進化の条件を総合的に理解することを目指す。

*詳細はこちら*
Murashima, Hosono, Saitoh & Sasaki, Modifications of SPH towards three-dimensional simulations of an icy moon with internal ocean, New Astronomy115, 102320 (2025) [pdf]

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