冥王星の近赤外分光観測

エッジワースカイパーベルト天体(EKBOs)は氷微惑星の残存物と考えられており、冥王星はその中で最大の天体である。そのため冥王星は、他の EKOBsと比べて重力が大きく揮発性の氷を表面に留めており、窒素・メタン・一酸化炭素の氷が過去の観測で同定されてきた [Cruikshank et al., 1997]。EKBOs 表面の氷の組成は、始原天体の形成や進化、あるいは天体表面での光化学反応や宇宙線照射による反応などと密接な関わりがある。そこで本研究では、新しい氷 成分の同定を目的に、すばる望遠鏡を用いて冥王星のLバンド(波長2.8〜4.0μm)の近赤外分光観測を行った。Lバンドは炭化水素の吸収が強く現れる 一方で、地球大気による影響を受けやすい波長域でもある。そのため、過去の観測では成分同定が可能なだけの観測精度が得られていなかったが [Grundy et al., 2002]、本観測ではすばる望遠鏡の波面補償光学装置(AO)を用いることで、成分同定に十分な高分解能のスペクトルを得ることが可能となった。

観測データを解析した結果、過去の観測では見られなかった吸収ピークが5カ所に現れた。Hapke (1993) のモデルをもとに様々な炭化水素の氷によるスペクトルの変化を計算した結果、冥王星表面に新たにエタン・アセチレン・シアン化水素の氷の存在が示唆され た。これらの氷は、Lバンド以外の波長域では特徴的な吸収ピークを持っていないため、今回のLバンドの高分解能観測によって初めてその存在が明らかになっ たものである。また冥王星表面におけるこれらの氷の存在は、大気中での光化学反応によるアセチレン形成、天体表面への宇宙線照射によるシアン化水素形成、 平衡凝縮過程を経ていない(=高いエタン比を持つ)彗星衝突によるエタンの付加、などの冥王星の進化過程と調和的であることも確認された。

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実線:観測データ(31ピクセルごとの平均値)

点線:N2-CH4-CO の氷のスペクトル

破線:N2-CH4-CO に C2H2, C2H6, HCN を加えた氷のスペクトル

*詳細はこちら*
Takanori Sasaki et al., Search for nonmethane hydrocarbons on Pluto, ApJ, 618, L57-L60 (2005). [pdf]

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