流しのしたの骨 江國香織(新潮文庫)

「江國香織は天才である」
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とは福田和也の言ですが、江國文学を読めば読むほどまさにそれ以外に評価のしようが無いことを痛感してしまいます。
とにかく全てにおいて巧い。

本書も、いかにもエクニらしい日常生活をゆるゆると描いている作品です。
父と母と、長女そよ、次女しま子、三女こと子、長男律の6人家族が送る日常生活の端々が、三女こと子の視点から淡々と語られます。

とある家族の普段の生活、日常の会話、そしてちょっとした事件。
江國さんがあとがきで「よそのうちのなかをみるのはおもしろい」と言っているとおり、何気ない普通の日々が素敵な物語を紡ぎ出していきます。

小説に必要なのは大きな事件や特別の出来事ではない。
それぞれの平凡な日常こそが、何ものにも代え難い小説の題材になりうるのだよ。
そんなことを教えてくれる1冊でした。


・・・なんて騙されてはいけません。


とんでもないです。
「よそのうちのなかをみるのはおもしろい」と言ってますが、こんなに変なよそのうちなんて見たことがありません。

家族ひとりひとりがちょっとずつズレてます。
そして家族全体で見ると、かなりズレてます。

これほど感覚だけで(あるいは感性だけで)生きてる家族が果たして現実にあるでしょうか。
全員がこれほど現実に毒されていない裸の心を持っているような家族が、まともに社会生活を送れるはずがありません。

何気なくサラッと日常が描かれているのでつい誤解しそうになりますが、この物語は完全に「非日常」です。
小説世界にのみ存在できる、極めてピュアでセンシブルなそこはかとない物語なのです。

こういう世界をやさしく何でもないことのように描いてみせる江國さん。
何気なく書いているように見えて、実はあちこちにちゃっかり罠を仕掛けている江國さん。
細部にまで神経の行き届いた文章によって、丁寧に読者をエクニワールドへと誘っていく江國さん。

まだ未読の作品も多いのでこれから評価が移り変わることもあるかもしれませんが、すくなくとも現段階で言えることはただひとつ

「江國香織は天才である」

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2 Comments

  1. トラックバックありがとうございます。私より、ずっとしっかり読み込まれているようで、拙文が恥ずかしい次第です。

  2. >GECKOOさん
    コメントありがとうございます。
    GECKOOさんの記事もうなずけるところがたくさんあって、とても楽しく読ませてもらいました。

    タイトルに惹かれる、っていうのは僕も同じです (^-^)
    ホントに巧いですよね。びっくりするぐらい。
    あと、「文章に空気を含ませる」という表現もすごく素敵でした。
    まさにそんな感じです。

    僕の読書日記では、比較的近い時期に同じ本を読んだ人のブログにTBして、いろんな感じ方や考え方を紹介したいと思っています。
    同じ本についていろんな人のブログを見て回るのもなかなか面白いものですよ♪

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