1年間指導してきた卒論生の芝池諭人くんが、無事に卒論を書き上げ、無事に発表を終えました。
ということで、簡単ですが彼の卒論の内容について紹介したいと思います。
卒論タイトルは「冥王代における後期重爆撃による大陸の破壊と溶融」です。
論文要旨(by 芝池諭人)
冥王代すなわち約 40 億年前より以前にできた岩体は世界中のどこにも見つかっていない。しかし近年、冥王 代の放射性年代をもつジルコンを含む堆積岩が発見され、冥王代にはすでに大陸地殻があったと考えられる ようになった。この大陸地殻は、いったいなぜ消えてしまったのだろうか。消失の原因として冥王代末期の 天体衝突の集中「後期重爆撃」による破壊や溶融が挙げられるが、定量的な推定はあまりなされていない。 本研究ではこれを解析的に計算する式を導出した。具体的には、後期重爆撃を Cataclym, Soft-Cataclysm, Standard の三つのモデルで表し、冥王代の大陸地殻が掘削される量と溶融する量を推定した。推定方法は、 以下の通りである。まずは、月面の巨大衝突盆地(Cataclysm モデル)のデータと、力学的数値シミュレー ション(Soft-Cataclysm モデル)および月面のクレーター数密度(Standard モデル)を定式化したものか ら、小惑星のサイズ分布を考慮して後期重爆撃の規模を推定した。小惑星のサイズ分布は、実際の観測に よって与えられた分布を累乗近似し、ベキ指数をパラメーターとした。このベキ指数によって、結果は大き く変化した。そして最後に、クレーターのスケーリング則を用いて、大陸地殻の破壊と溶融を推定した。推 定される量は、総掘削体積、総溶融体積、掘削および溶融領域による地球表面のカバー率、の四つである。 結果としては、後期重爆撃のいずれのモデルであっても、いくつかの巨大衝突によって大陸成長曲線と同程 度の体積を溶融する可能性はあるが、溶融領域が地球表面を覆うことはできないとわかった。冥王代の大 陸地殻は地球表面に点在していたと想像されるため、これら全てが溶融されるとは考えにくい。すなわち、 後期重爆撃によって冥王代の岩体の消失を説明することは困難である。
卒論発表会での発表スライドを以下に載せておきます。
また彼の卒論のPDFファイルをこちらに置いています。
興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひご覧になってみてください。
今回は4人目の卒論指導。
前回までも三者三様の研究スタイルで指導してきましたが、今回はさらに思い切って、これまでにない非常にチャレンジングなテーマで卒論に取り組んでもらいました。
そして、そのムチャぶりと言ってもいい研究テーマを、芝池くんは見事にこなし、素晴らしい卒論に仕上げてくれました。
いやあ、天晴です。
今回特に素晴らしかったのは(そして驚いたのは)芝池くんの柔軟性と吸収力。
冥王代における天体衝突の影響という、天文学と地質学とをまたぐ学際的研究に取り組んだのですが、普通の卒論生であればとても内容を消化しきれず、「二兎を追う者は一兎をも得ず」な結果になる可能性のあるややリスキーなテーマでした。
しかし彼は両方の分野の論文をしっかりと読みこみ、理解し、そして新しいアイデアをもとに自主的に考察を進めていくという、こちらの予想をはるかに上回るレベルで卒論を進めていってくれました。
なんといっても驚異的なのは、その読み込んだ論文数。
卒論の参考文献リストには、なんと103本(!)の論文が載せられています。
もちろん一部を参照しただけの論文も多いのですが、天文学と地質学という異分野の論文を同時に短期間のうちにこれだけ読みまくれるというのは、なかなか他に類を見ない才能だと思います。
さらに、様々な分野の研究者の方にアポを取って、各分野の専門家と研究内容について議論し、その結果をしっかりと卒論にフィードバックできた点も、本当に見事でした。
最終的にたくさんのモデルやパラメータのもとで計算を行い、なかなか興味深い示唆に富んだ結果を得ることができました。
これらの結果については、まずは5月の連合大会で発表してもらう予定です。
その後はなるべく早く投稿論文としてまとめるべく、僕も一緒にがんばっていこうと思っています。
今後もいろんな方にアドバイスを求めるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
さて、来年度からは京大の学生さんと一緒に研究を進めていくことになります。
東工大での卒論・修論の指導の経験を生かし、新しいメンバーと楽しい研究生活が送れるよう、がんばります。
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