不平等社会日本―さよなら総中流 佐藤俊樹(中公新書)

真の機会平等とは何か。データを用いた統計的議論の好例としても読む価値あり。
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「読む必要無し」と徹底的に批判した下流社会(三浦展)と比べると、まさに月とすっぽん。2000年に出版されたやや古めの本ですが、適切なデータの用い方・解釈の仕方を学ぶうえでも、読んでおきたい一冊。そして、各データをもとに誠実に議論が進められているため、内容的にも時代に左右されないどっしりとした議論がなされており好印象。内容がぎっしり詰まっているため、最近の軽めの新書と比べると読むのにやや時間がかかるかもしれませんが、意識的に時間を作って読んでおきたい良本だと思います。


本書の大きな特徴は、近年「格差社会」というキーワードで語られることの多い、格差の固定化・拡大化を2000年の段階ですでにはっきりと示していたということに尽きます。親の職業・資産ランクによって、子の職業・資産ランクが決定されてしまうことを、複数の視点からのデータを用いて議論します。そして表面的な「学歴社会」論を一蹴し、「学歴社会」の本当の恐ろしさを次のように語ります。

「学歴社会」というのは、ふつう学歴を重視される社会とされている。それももちろん重要な要件だが、日本社会における「学歴」はもっと強烈な意味をもっている。(略)高い学歴をもつ人間は実績主義にかたむく。自分の地位を実力によるとみなせる。親の学歴や職業といった資産が、選抜システムのなかで「洗浄(ロンダリング)」されているようなものだ。「本人の努力」という形をとった学歴の回路をくぐることで、得た地位が自分の力によるものになる。だからこそ、自分の地位を実績主義で正当化できたり、努力主義を「負け犬の遠吠え」とみなせたりする。そういう魔力こそが、「学歴社会」の「学歴社会」たるゆえんなのだ。

ざっと一読しただけではよく意味が取れないかもしれませんので、このあたりはぜひ本書を読んでじっくり味わっていただきたいのですが、要は、「親の資産が子の実績に影響する社会において、その子の “独自の実績” をどう定義するか」問題に帰着します。つまり、平等な社会を実現するために “実績主義” を導入したとしても、その “実績” そのものに格差社会的バイアスが最初からかかってしまう危険性を論じているのです。

そして、こうした “不平等” な状況のもと、日本社会が現在たどっている道が

いわば、「努力すればナントカなる」社会から「努力してもしかたがない」社会へ、そして「努力をする気になれない」社会へーー。

という、どん詰まりの閉塞感に包まれた道であり、そうした社会の変化が

現在の日本が経験している閉塞は、10年単位ではなく、50年単位で考える必要がある地殻変動なのである。

と論じ切っています。

読めば読むほど、日本社会が不可逆的に「超格差社会」へと向かって行っていることを実感させられます。それとともに、最近の「若者自己責任論」がいかに間違った議論であり、また恐ろしい議論であるのかを改めて考えさせられます。


本書が世に出てからすでに8年が経ちました。現在の状況を見渡してみると、(おそらく既得権益者たちの目論見によって)「不平等社会」は是正されるどころか、ますますその勢いを強めている感があります。

唯一、正しい「実力主義」あるいは「実績主義」が貫かれているのは、「あちら側」で価値を生み出すエンジニアたちの世界ぐらいでしょうか。
#そうあってほしいし、今後もそのままであってほしい

本書では最後の章で「平等社会」へ向けての途を様々な形で示しています。機会平等社会への移行、就業システムの変換、セイフティネットの準備、そしてそれらの成果を20年後に判断するための道しるべ。最後まで盛りだくさんの内容になっています。

でも結局、著者が言いたいこと(そしてそれは私が言いたいこととも重なっているわけですが)は

これまでデータを紹介しながらえんえんのべてきたが、要するに、私はただ、成功といえる成果をあげたすべての人が、胸をはって、「自分の実績だ」といえる社会でありたいだけだ。生まれによる差がそのまま一人一人の実績につながるならば、それは正当な競争ではない。ただの出来レースである。出来レースで勝っても、嬉しくないし、誇りにも思えない。

ただ、それだけのことなんです。

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good2nd

2 Comments

  1. 良い本ですね!
    そしてすばらしくよくわかるレビューでした!
    私も手に取って読んでみようと思います!

    佐々木さんのブックレビュー、詳しく書いてくださるので、面白いですね!
    これからものぞきにきます!

  2. >わっこさん

    コメントありがとう。
    全ての文が「!」で終わるぐらい興奮したコメントで嬉しいよ(笑

    もしよかったら読んでみてください♪

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