上田翔士@卒論指導

1年間指導してきた卒論生の上田翔士くんが、無事に卒論を書き上げ、無事に発表を終えました。
ということで、簡単ですが彼の卒論の内容について紹介したいと思います。

卒論タイトルは「内部海を持つ地球型惑星の生命居住可能性」です。

論文要旨(by 上田翔士)

系外地球型惑星と思われる天体や宇宙空間を漂う浮遊惑星が発見され始めている昨今、生命居住可能な系外地球型惑星や浮遊地球型惑星が存在するのかどうかということは非常に重要なテーマである。そういった状況の中で、表面が全球凍結しているが氷の内部が地熱によって溶けて、表面が氷に覆われた海 (内部海) が出来ることが分かっており、内部海の生命居住可能性について数多くの研究がなされている。本研究では惑星内部からの熱フラックスによって、惑星進化のタイムスケールで内部海を保持する系外地球型惑星・浮遊地球型惑星について、惑星質量・中心星からの距離・惑星表面の水の量・放射性熱源の量をパラメータとしてふり、議論した。地球と同質量で温室効果がない系外地球型惑星は 1AU において地球の 0.5-8 倍の水を表面に持つ場合、または地球の 0.4 倍以上の放射性熱源を持つ場合に内部海をもつことが出来る。8 倍以上の水を表面に持つ場合は、内部海の底に高圧氷が生じてしまい、ハビタブルでなくなる。内部海をもつ条件というのは質量依存性が高く、質量が地球の数倍の場合、内部海を保持する可能性が大きくなる。地球と同質量で温室効果がない浮遊地球型惑星は地球の 2-8 倍の水を表面に持つ場合、または地球の 2 倍以上の放射性熱源を持つ場合、内部海をもつことが出来ることが分かった。8 倍以上の水を表面に持つ場合は、上と同様にハビタブルでなくなる。海惑星よりも内部海をもつ地球型惑星のほうが系外惑星や浮遊惑星において一般的であることが示唆されたため、研究や探査の際に海惑星以上に内部海を持つ地球型惑星にも留意しなくてはならない。

卒論発表会での発表スライドを以下に載せておきます。

また彼の卒論のPDFファイルをこちらに置いています。
興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひご覧になってみてください。


さて、今回は昨年の尾花くんに続いて2人目の卒論指導となりました。
(ただし尾花くんは大学院で別の専攻に進学したため、同じ業界に残る学生としては上田くんが僕の最初の指導学生となります)

今回の卒論では、もともとは「ハビタブル浮遊惑星」という非常にアバウトな(そしてややネタ的な)テーマを提示していました。
ちょうど「銀河系内に浮遊惑星がたくさん存在している」という論文が出たころで、実験的に卒論で浮遊惑星を扱うのもおもしろいかな、となんとなく(ノリで)提案したテーマでした。

ということで、先行研究もあまりありませんでしたし、どこへ進むのかもよくわからないまま手探りな感じで卒論指導がスタートしました。

上田くんには、最初に一般的な地球型惑星のハビタビリティについて勉強してもらった後、いくつか関係論文を読んでもらいました。
その過程で一緒に何度か議論していく中で、内部海を持つ地球型惑星(浮遊惑星を含む)について焦点が絞られていき、さらには高圧氷の問題など新しい視点も加えていくことができました。

彼はまだ学部生にも関わらず、複数の論文をしっかり読み込み、その内容をまとめ、さらに研究の方向性を議論するという、非常に密度の濃い研究活動を進めてくれたと思います。
こんな海のものとも山のものともつかぬ卒論テーマを、かっちりとした意味のある議論が行える研究にまで持っていけたのも、ひとえに上田くんのがんばりがあってこそでした。
本当に素晴らしかったと思います。

今回の卒論での経験を生かして、大学院でも充実した研究活動をガンガン進めていってくれることを期待しています。


ちなみに上田くんにはさっそく5月の連合大会で今回の研究について発表してもらう予定です。
学会が近づいたらまたtwitter等で宣伝すると思うので、ぜひ聞きに行ってやってくださいね。 >惑星科学なみなさま


卒論では今回のような「実験的」なネタについて、1年間ゆっくり時間をかけて取り組んでいけるので、僕としてもとてもよい経験になっています。
来年度も4年生がたくさん入ってくるとのことなので、またおもしろそうなテーマをいくつか用意して、一緒に楽しく勉強&研究していければいいなと思います。

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