冥王代の地球表面から発見された岩石は未だに無いが、唯一ジルコンが存在しており、これが冥王代の大陸地殻がかつて存在した証拠となっている。しかし、プレートテクトニクスや侵食などの地質学的プロセスにより、その後大陸地殻は消失したと考えられている。本研究では、冥王代後期重爆撃期(Late Heavy Bombardment, LHB)による影響が大陸地殻の消失にどのように寄与したかを定量的に評価した。
LHBが地球表面に与える影響を分析するため、インパクターの質量頻度分布(SFD)をパラメータとして仮定し、個々の衝突による掘削および溶融の総量を計算した。月面におけるクレーターの密度や最大盆地のサイズといった月の観測データをもとに、地球表面の掘削面積および溶融面積を推定した。その結果、LHBは直接的には地球全体の大陸地殻を完全に掘削・溶融することはないが、衝突後の溶融物が地球表面の70%以上を覆う可能性があることが示された。これにより、冥王代岩石がほとんど発見されない理由をLHBによる影響で説明できる可能性が示唆された。
また、SFDの傾き(a値)がLHBの影響を大きく左右することが分かった。大きなインパクターの影響が支配的になる場合(aが小さい場合)や、小さなインパクターの数が増える場合(aが大きい場合)で、掘削・溶融の特性が変化した。特に、aが約1.6の範囲では、直径100 km程度のインパクターによる影響が最も顕著であり、この範囲が最も現実的なシナリオとされた。
さらに、地球表面における溶融領域の広がりは、直接的な掘削・溶融の影響だけでなく、衝突後に発生する溶融物の広がりによって大幅に増加することが明らかになった。この結果は、LHBが地球表面の広範囲を覆う溶融物を形成することで、冥王代大陸地殻が地表から消失したという仮説を支持するものである。ただし、仮定されたインパクターの密度や速度、地球の大気条件が結果に影響を及ぼす可能性がある点、またLHB以前の衝突や地質学的活動の影響を考慮していない点などは、今後の研究課題として残されている。
衝突天体のサイズによって、様々な地面の掘削・溶融をモデル化している
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Shibaike, Sasaki & Ida, Excavation and Melting of the Hadean Continental Crust by Late Heavy Bombardment, Icarus, 266, 189-203 (2016) [pdf]
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