巨大天体衝突による “ばらまき” の力学的影響と化学的影響

惑星形成過程において、巨大天体衝突により原始惑星のコアやマントルから大量の破片(Giant-Impact Fragments: GIFs)が形成される。これらの破片には金属鉄も含まれ、その割合は質量にして破片全体の1~25%に達する可能性がある。これらのGIFsは、地球のような形成途中の惑星に再集積されることで、動的摩擦によって軌道の離心率を低下させる役割を果たす。また、GIFsが地球に再集積されることで、地球のマントル中の高親鉄性元素(Highly Siderophile Elements: HSEs)の過剰な存在を説明する可能性がある。このHSEsの供給は、late veneer 仮説と一致し、GIFsがその供給源となり得ると考えられる。さらに、GIFsの再集積は、初期地球の還元的環境形成にも寄与した可能性がある。GIFsに含まれる金属鉄が地球表面の水と反応することで、H2が生成され、還元的なH2を含む大気が形成されることが期待される。この還元的環境は、生命の起源と初期進化において重要な役割を果たした可能性が高い。

巨大天体衝突によるGIFs形成過程の模式図

本研究では、GIFsの力学的および地球化学的影響を評価するため、N体計算とSPH法を組み合わせたハイブリッドコードを用いてシミュレーションを行った。計算の結果、GIFsの総質量は地球質量の約0.5倍に相当し、GIFsの生成と再集積のプロセスは、地球型惑星の形成と進化に不可欠な要素であることが示された。

本研究は、巨大天体衝突により生じたGIFsが地球の進化に与える影響を定量的に評価した初の試みであり、地球型惑星の形成・進化を明らかにするうえで重要な制約を与えたといえる。また、GIFsが初期地球の環境条件をどのように変化させたかを解明することは、地球生命の起源や系外惑星のハビタビリティを考える上でも重要である。

各計算ランごとの、GIFsの総量とマントル(緑)・コア(赤)の割合

*詳細はこちら*
Genda, Iizuka, Sasaki, Ueno & Ikoma, Ejection of iron-bearing giant-impact fragments and the dynamical and geochemical influence of the fragment re-accretion, Earth and Planetary Science Letters470, 87-95 (2017) [pdf]

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