ケプラー宇宙望遠鏡によって、連星の近くを公転する周連星惑星(Circumbinary Planets: CBPs)が見つかっている。それらの惑星は海王星から土星程度の惑星質量、およそ 1AU 以内の軌道長半径という共通した特徴を持っている。これらの惑星は、周連星原始惑星系円盤の遠方で形成した後に現在の軌道まで移動してきたと考えられる。一方、連星の公転によって時間変動する重力場により、連星の近傍には力学的な不安定領域が存在する。実際の周連星惑星の軌道はこの不安定領域境界のすぐ外側に位置している。また周連星原始惑星系円盤の内側には空隙が生じ、円盤内縁半径はこの不安定領域の中にあることがわかった。
そこで我々は、惑星は一度軌道不安定領域へ侵入して円盤内縁まで移動するが、その後円盤の散逸に伴って不安定領域の外へ移動するという軌道進化シナリオを立てた。円盤の内縁近くでは不安定領域の中なので惑星は連星から強い重力摂動を受けて軌道が励起される。一方で十分な量の原始惑星系円盤ガスがあれば、ガス抵抗によって惑星軌道の励起が抑制される。惑星の軌道はこれらの釣り合う位置で決まり、円盤ガスの散逸に伴って惑星は外側へ移動し、不安定領域のすぐ外側の軌道を公転する。
周連星惑星の軌道進化に関する概念図。円盤内縁まで移動した後に、中心連星から重力散乱を受けて外側に移動したところで軌道進化を終えている。
以上のシナリオを検証するため、我々は連星の離心率と質量比をパラメータとして N 体計算を行った。シミュレーションの結果、連星の離心率が低い場合、惑星が不安定領域から外側へ運ばれる可能性が高いことが示された。一方、連星の質量比については、惑星の安定性への影響が比較的小さいことがわかった。また、ガス円盤の密度が高い段階では、ガスによる減衰力が強く働き、惑星が不安定領域を離脱して安定した軌道に到達する確率が高まることが明らかになった。しかし、ガス円盤が希薄化する後期段階では、惑星が不安定領域内に留まることで最終的に系外に放出される可能性が高まることが示唆された。
以上のシナリオに則ると、不安定領域のすぐ外側を回る周連星惑星の軌道が再現可能であることがわかった。また惑星が不安定領域内の軌道移動を生き延びることができる連星離心率の範囲は実際の周連星惑星を持つ連星系と調和的であり、軌道移動の間のガス降着による惑星成長を考慮することで実際の周連星惑星の軌道を説明できる可能性があることがわかった。 つまり、Kepler-16bやKepler-34bなどのCBPsは、不安定領域の境界付近で形成され現在の軌道に達した可能性が高いことが示唆された。
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Yamanaka & Sasaki, Orbital Evolution of a Circumbinary Planet in a Gaseous Disk, Earth, Planets and Space, 71, 82 (2019) [pdf]
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