異形の惑星 井田茂(NHKブックス)

1995年に初めて太陽系外惑星が発見されてからはや13年。惑星科学者たちの感動と興奮をみなさんのお手元に。
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目次

・序章:豊饒の宇宙
・第一章:未知なる異形世界の幕開け
・第二章:プラネット・ハンターたちの苦闘と栄光
・第三章:再構築を迫られた太陽系形成理論
・第四章:異形の惑星たちの起源に挑む
・第五章:統一的な惑星系形成理論の構築へ
・第六章:この銀河系に地球型惑星はいくつあるのか
・終章:さらなる惑星フロンティアの開拓

先日紹介した「惑星学が解いた宇宙の謎」(井田茂)と比べると、こちらは系外惑星の発見の歴史と、その後の系外惑星研究の進展・展望に主眼が置かれています。

宇宙には太陽系以外にどのような惑星系が存在するのか?
地球に似た惑星は存在するのか?
その惑星上での生命の発生・進化の可能性は?

そうした疑問に対して、理論と観測、そして”妄想”の3方向から答を提示してくれます。知らない世界を垣間見るという点でも、また自由な思考実験を楽しむという点でも、とても楽しめる一冊だと思います。ちなみに、こちらも井田さんの文章力・物語力にグイグイ引っ張られて、最後まで飽きずに楽しく読み通せました。理系の本が苦手な人でも大丈夫です (^-^)


惑星科学を勉強している学生さんには、ぜひ第三章〜五章の汎惑星形成理論の内容をじっくり味わって読んでいただきたいのですが、一般の読者の方にとってはこのあたりはちょっと難しいかもしれません。その代わり、絶対に面白く読めるのは系外惑星発見のドラマが語られる第二章と、「宇宙に生命が存在する惑星は地球以外にあるか?」について総合討論している第六章。この2つの章は、研究者たちが味わう感動や興奮、議論や妄想を疑似体験できるという点において、一般の読者の方にも非常に楽しんでいただける内容だと思います。

第二章では、プラネット・ハンターたちがそうした系外惑星を、どのような苦闘の果てに発見したのかという物語を述べる。かりそめの栄光からの暗転、絶望、そして再逆転という半世紀にわたる科学者たちのドラマだ。

第二章のドラマに関しては、まだ一度も読んだり聞いたりしたことの無い方にはぜひ読んでいただきたいと思います。一緒に「新発見」の現場を感じてみましょう。

「人類の同胞を探す」という夢のためには、地球のように生命が居住可能な惑星が、どれくらいの数で存在しているのかを科学的に見積もることが先決だ。現段階でそれを議論することは冒険だが、第六章では、第一章から第五章までを踏まえて、考えられる限りであえて議論してみたいと思う。筆者の見積もりでは、生命居住可能な惑星はこの銀河系に無数にあるということになる。

第六章では、研究者がどのように想像(妄想)をふくらませるのか、そしてそれらをいかに科学的に検証していくのか、について井田さん自身の思考過程を辿ることができます。ただこの章では、科学的に正確な内容を論じているわけではないので、科学者の立場からすると賛否両論があるかもしれません。また、やや雑な議論で無理やり結論を導いている感じがしなくもありません。しかしこれらの点を差し引いても、やはり読むべき価値のある一章だと僕は思っています。”正確さ” が100%保証されない状況で、科学的に妥当な想像や妄想をひとつひとつ積み重ねながらざっくりと見通しを示すことは、何の根拠も無いところから都合のよい結論を導く最近流行の「エセ科学」とは全く違うのだ、ということがよくわかると思うからです。

本書を読めば、もちろん太陽系外惑星の不思議な特徴を知ったり、それらを説明するための理論研究の進展を追いかけたりすることができます。でも実はそれ以上に、「研究者」の生態(何に興奮し、どのように考え、どういうドラマを生み出しているのか)を感じられることが本書の一番の特徴だと思います。


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最後に、本書の内容とはあまり関係がありませんが、あとがきで著者の井田さんの哲学を感じる文章がありましたので、メモ的にそれを引用してこの読書日記を締めたいと思います。僕も一科学者として、考えさせられる文章でした。

世界を理解する方法論には、たとえば宗教というものもある。この方法論は、科学に比べたらはるかに手順は少なく、敷居は低い。それゆえ、人類の歴史において重要な指導原理となってきたことは事実だ。しかし、異なる宗教間の(ときとして同一の宗教内でも)相互理解を十分に行える素地が欠落しているので、政治にも利用され、異教徒間の差別や憎悪をも招くという悪弊も生じた。特に、グローバル化の現代においてはそうだろう。人類共通の理解を可能にする科学という世界認識の方法論は人類に残された最後の希望となるかもしれない。



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