惑星学が解いた宇宙の謎 井田茂(洋泉社新書)

一般の方には惑星科学の興奮を。研究者の方には問題点の整理を。幅広い読者層を満足させる一冊です。
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目次

・序章:惑星学への誘い
・第一章:宇宙論の到達点
・第二章:宇宙の中での太陽系形成
・第三章:地球の誕生
・第四章:太陽系、地球型惑星の誕生
・第五章:太陽系、巨大惑星の誕生
・第六章:系外惑星の発見
・終章:二一世紀の惑星学

久しぶりに読み返してみましたが、改めて非常によく作り込まれた本であると感心させられました。数式を一切使わずに最先端の宇宙論〜惑星科学までが過不足無く解説されており、またリズム感のある文章に乗って研究の興奮や感動がドラマチックに展開されていきます。その辺の小説や文学なんかよりも遙かにドライブ感に溢れ、読者をグイグイと “惑星学” の世界に引きずり込むこと間違いなし。


特に秀逸なのが、序章。宇宙論の発展・進化の紹介から、太陽系外惑星の発見、日米の研究体制の違い、そして21世紀における惑星学の台頭まで、あらゆる話題と研究者哲学がわずか16ページに濃縮して詰め込まれています。そしてその語り口も熱い。

「地球のような惑星は他にあるのか」に対する答えは、ほぼ100パーセント、イエスだ。「宇宙生命はいるのか」に対する答えもたぶんイエスだろう。生命は惑星で生まれる。その惑星が、宇宙に満ち溢れているのだ。そこには地球のような生命を育む惑星もいくらでもあるだろう。
惑星の研究は、明らかに宇宙における生命の研究に直接つながる。「生命はどうやって生まれたのか」という問いへの、科学の挑戦も新たな切口で始まるのだ。
(中略)
「惑星学」は、いままさに黄金期へと向けて登りはじめている。黄金期というのは過ぎてみないとわからない。「惑星学」がどこまで登っていくのか、それは僕にもわからない。その期待感と息吹を、みなさんにお伝えしたいと思う。

そして第二章以降、まさにその「期待感と息吹」が全編にわたってこれでもかというほどに展開されます。特に一般の読者にとっては、第六章の系外惑星発見にまつわるエピソードは非常に面白く読めると思います。系外惑星探しにまつわる失敗と成功の歴史、そしてそこで繰り広げられた研究者同士のダイナミックなやりとり。(詳しく書くと “ネタバレ” しちゃうのであまり書けないのが悔しい!)

すごいドラマがあったんですよ、世紀の大発見の裏には。このあたり、例えば「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一)を読んで研究のダイナミズムに興奮した方であれば、間違いなく楽しめると思います。

ちなみに著者の井田さんは、世界を激震させた系外惑星発見の第一報を、まさにその激震の発信源のひとつであるリック天文台の本部で耳にされたそうです。しかもそれは、海外の研究者と共同研究を行うために初めての海外暮らしをスタートさせた、そのわずか一ヶ月後。なんてうらやましい絶妙のタイミング。運命の巡り合わせとはこういうことを言うのでしょう。


さて、ここまではどちらかというと一般の読者向けに本書の紹介をしてきましたが、実は本書は惑星科学を専門に研究している人にとっても、必読の書であるといえます。数式を一切使っていないため、パッと見は “教養本” の雰囲気をしているのですが、とんでもない、これは惑星科学の基本知識と最先端の問題意識がぎっしり詰まった “理学書” でもあるのです。特にこれから惑星科学を学ぼうとしている学部生、あるいは断片的な知識が溜まりつつもなかなか頭の整理がつかないでいる大学院生にとって、これほどコンパクトにまとまった “読み物” としての教科書はおそらく他にはありません。また井田さんの研究者としての生き方や哲学に触れるという意味でも、貴重な一冊だと思います。

惑星科学をやってるのにまだ本書を読んでないという方、さっそく今日から読み始めましょう。


最後に、本書のあとがきから。
著者の井田さんは高校三年生のときに、京都大学の研究者だった佐藤文隆博士の文章に出会い

そのとき、素粒子論的宇宙論の勃興の息吹を瑞々しく伝える文章に、僕は釘付けになった。(中略)その文章で、京都大学で素粒子論的宇宙論を学ぼうと決意した。

ということで、研究者へ向けての第一歩を踏み出すことになったそうです。(素粒子論的宇宙論から惑星科学に移ったいきさつについては、あとがきに詳しく書いてあるので読んでみてくださいね)

若き日の井田少年のように、本書を読んで、惑星学の勃興の息吹を瑞々しく伝える文章に釘付けになり、東工大で惑星学を学ぼうと決意する若者がたくさん現れることを期待します。また本書を通して、これから黄金期を迎える「惑星学」に多くの人が関心を寄せ興味を持ってくれることを、一惑星学者として心より願っています。


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