ホンモノの日本文学への回帰として、あるいは現代における「本格小説」への挑戦として。
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ベストセラー「日本語が亡びるとき」(筑摩書房)で、日本語と日本文学の現在・未来を熱く語った水村美苗氏による、ある種の実験的・挑戦的「本格小説」です。
優雅な階級社会が残っていた昭和の軽井沢。混血孤児で下流階級に育った東太郎と、隣家に住む上流階級のお嬢様よう子、そしてその幼なじみの雅之。三人の間で数十年にわたり繰り広げられる壮大な恋愛大河ドラマは、まさしく「本格小説」という名にふさわしい重厚さと味わい深さを持った、第一級品の物語と言えるでしょう。
現代の文学作品を見渡し
私たちが知っていた日本の文学とはこんなものではなかった、私たちが知っていた日本語とはこんなものではなかった。
と嘆く著者が、「< 読まれるべき言葉> をなんとかして現代の読者にも届けたい」という思いを込めて書き上げた渾身の作品。文学を愛する人、日本語の亡びを憂える人にとっては、必ず読んでおきたい一冊です。
また一方で本作品は、知的なたくらみに満ちた小説でもあります。
複数の語り手による一種の入れ子構造は、そのたくらみのひとつです。これにより本作品の重厚さが一層際だち、1000ページを超す長編小説にゴシック的な構造美を与えることに成功しています。
さらに小説全体の5分の1を占める「本格小説の始まる前の長い長い話」においては、著者である水村美苗氏自身を作中に登場させることによって、本作品のフィクション・ノンフィクションの境界を危うくさせています。その結果読者は、私小説と本格小説の境界というものを嫌でも意識させられることになり、タイトルそのものが「本格小説」であることと相まって、”本格小説とはなんぞや” という問いを常に頭に置きながら本書を読み進めることになります。
こうした小説の技法をあからさまな形で読者に見せつけている点も、本作品の大きな魅力のひとつでしょうね。
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