MONSTERを読み解く

※ネタばれ注意!※
※「MONSTER」(浦沢直樹)を未読の方は読まないでください!!※

浦沢直樹の名作「MONSTER」について、読後の疑問点にQ&A方式で答えていきます。
ただしこれらの回答は全て個人的な解釈によるものであり、その正誤については一切責任を持ちません。
また、「もうひとつのMONSTER―The investigative report」については読んでいないため、浦沢直樹本人のこのマンガに対する解釈とは異なるかもしれませんが、その点はご了承ください。

 
Q.ヨハンとアンナの過去について

A.赤いバラ屋敷に連れて行かれたのはアンナ。
  その記憶を受け継いだのはヨハン。
  511キンダーハイムでの「事件」を起こしたのはヨハン。
  しかし、アンナも511キンダーハイムに預けられていたことになっている。
  ではあの「事件」が起こったときアンナはどこに?

    「君は僕で 僕は君」

  そう、アンナもあの場にいたのだ。
  そしてその記憶は、再びヨハンに飲み込まれた。
  (いや、むしろヨハンに押し付けた、と言うべきか)

 
Q.フランツ・ボナパルタは、何をしようとしていたのか?
  これは本作品のメインテーマである。
  結論から言えば、キーワードは

    「多重人格と双子」

  以下、個々の問題について詳しく述べる。

Q1.絵本について1(めのおおきいひと くちのおおきいひと)

A1.あくまを受け入れた「くちのおおきいひと」
   あくまを拒絶した「めのおおきいひと」
   どちらも結局は不幸になってしまう。
   お互いに
    「受け入れればよかった」
    「受け入れなければよかった」
   と思いながら。
   人は、相反する感情を自らの内に共存させねばならないとき、
   そこに相反する人格を作り上げてしまう。
   決して互いを受け入れることのない二つの人格。
   それぞれの人格の内なる願望は、互いのもう一つの人格に引き渡される。
   
     「くちのおおきいひと」は、あくまを受け入れたくないという思いを
     「めのおおきいひと」に引き渡した。
     「めのおおきいひと」は、あくまを受け入れたいという思いを
     「くちのおおきいひと」に引き渡した。
   
   しかし、その思いはそもそもそれぞれの内に潜んでいたものであり、
   いつか必ずそれは、潜在意識の底から引きずり出されるのだ。

Q2.絵本について2(へいわのかみさま)

A2.神様は「絶対善」である。
   悪魔は「絶対悪」である。
   絶対善であるためには、内なる悪の全てを悪魔に引き渡さなければならない。
   絶対悪であるためには、内なる善の全てを神様に引き渡さなければならない。
   一人の人間の中に生まれる、相反する二つの人格。
   鏡の中にもう一つの人格を発見したとき、
   それを受け入れることのできなかった神様は
   それを自らの人格の一つとして受け入れることのできなかった神様は

     悪魔の眉間に銃を向けてしまう。
  
   悪魔を許すことが、神様にはできなかったのだ。

Q3.絵本について3(なまえのないかいぶつ)

A3.二重人格から多重人格へ。

     「人はなんにだってなれるんだよ」

   名前が無ければ、人はなんにでもなれる。
   あらゆる人格を作り出すことが出来る。
   人間を縛っているものは「名前」なのだ。
   名前が無いことこそ「完全なる自由」なのだ。
   しかし、その「名前」を手に入れてしまったとき、
   全ての人格を、その「名前」が飲み込んでしまったとき、
   そこに残されるのは、「完全なる孤独」でしかありえない。
   「名前」は、相反する人格さえも飲み込んでしまうから。。。

Q4.511キンダーハイムでの「実験」について

A4.まさに、子供たちの中に別の人格を作り上げるという実験。
   そしてそれは、その意味において成功した。
   過度のストレスを受けた子供たちに、突然現われた異常なまでの攻撃性。
   新しい人格に全てを託し切れなかった子供たちの自殺。
   そして、「超人シュタイナー」

Q5.なぜ、ヨハンとアンナが「選ばれた」のか?

A5.フランツ・ボナパルタは、ある恐ろしい「実験」を考え付いた。
   それは、一人の人間の中に多重人格を生まれさせるのではなく、
   全く同じDNAを持った双子に、二つの相反する人格を与えること。
   彼は当時何組かの「選ばれた」夫婦に、実験用の子供を作らせていた。
   そんな中、たまたま生まれた双子のヨハンとアンナは、
   彼に大きなインスピレーションを与えてしまったのだ。

 
Q.アンナとヨハンの記憶のすり替えについて

A.アンナは赤いバラ屋敷に連れて行かれた。
  それは、アンナに「悪魔」の人格を植えつけるため。
  しかしフランツ・ボナパルタは、計画を突如中断してしまう。
  双子の母親に恋をしてしまったために、
  あの母親の子供を「怪物」にしたくはなかったがために、
  全ての関係者を殺害し、すべての「記憶」を消したのだ。

    「ここであったことは、全て忘れなさい
     人はなんにだってなれるんだよ
     怪物になんかなっちゃいけない」

  そして、アンナは全ての記憶をヨハンに託すことに。。。

 
Q.ヨハン・リーベルトについて、そして、全ての謎解き

A1.〜511キンダーハイム事件まで

   アンナが赤いバラ屋敷に連れて行かれた後、
   彼らの母親もどこかに連れ去られてしまう。
   そのため、アンナが帰ってくるまでの間、
   ヨハンは部屋で一人で絵本を読み続けることになる。
   このときの「絵本」が、後のヨハンの生き方の全てを決定付けることとなる。
   ヨハンは帰ってきたアンナから全ての記憶を受け継ぎ、
   自分の中に「怪物」の人格を作り上げる。

     ヨハンは「くちのおおきいひと」
     アンナは「めのおおきいひと」

   そして「悪魔」を受け入れたヨハンは、511キンダーハイム事件を起こすことに。

A2.〜リーベルト一家惨殺事件まで

   ヨハンとアンナは、事件後二人で生きていくことを誓い合う。

     「君は僕で 僕は君」

   一人の人間 二つの人格  二人の人間 二つの人格
   「神様」と「悪魔」、二つの相反する人格が双子という形で共存していく。
   神様の知らないところで、身の回りの人間を次々と殺していく悪魔。
   そして、あの夜、とうとう「神様」は鏡に映った「悪魔」を見てしまう。

     「ちゃんと頭を狙って撃つんだよ」

A3.〜ヨハンが絵本を読んで失神するまで

   離れ離れになったヨハンとアンナは、全く対照的な人生を送る。
   内なる悪魔を押さえつけるかのように、明るく快活な毎日を送るアンナ。
   どこまでも膨れ上がる悪魔に身をゆだね、人を殺し続けるヨハン。
   ヨハンはここでも「絵本」に大きな影響を受けている。
   次々と人を喰らい、大きくなっていく「悪魔」

     「僕を見て!僕を見て!僕の中のモンスターがこんなに大きくなったよ」

     「助けて!僕の中のモンスターが破裂しそうだ!」

   ひがしのあくまが、にしのあくまに出会ったときのように、
   ヨハンはアンナへ向けて、自分が大きくなっていることを伝え続ける。
   絵本の内容を覚えていずとも、潜在的に、絵本によって操られているヨハン。
   いや、内容を覚えていなかったからこそ操られているのだろう。
   (当然、内容を失ったのは511キンダーハイムでの実験による結果)
   しかし、ヨハンは図書館で「なまえのないかいぶつ」に再会してしまう。
   そして、その最後を思い出してしまうのだ。
   そう、最後にもう一人の自分を食べてしまうことを。
   唯一心を許していたアンナを食べてしまうことを。
   
     「君は僕で 僕は君」

   そのことを思い出したヨハンは、あまりのショックに涙を流し失神してしまう。

A4.〜アンナがヨハンに全てを話すまで

   ヨハンはその後も「最後の風景」を思い描きながら、さらに人を殺し続ける。
   ただし、絵本のことを知った彼はある目的のために人を殺し続けることになる。
   それは、自分たちの人生を弄んだ人間に「最後の風景を見せる」という目的のため。
   ペトル・チャペックへの復讐のため。
   そしてその後、ペトル・チャペックらを動かしていたフランツ・ボナパルタが
   彼らの人生を狂わせた「絵本」を描いたフランツ・ボナパルタが
   生きていることを知ったヨハン。
   最後の復讐を行おうとしていたまさにその時、
   アンナ・リーベルトの全ての記憶がよみがえる。

     「違う!違う!あれはあなたじゃない!」

A5.ヨハン、全てを悟る

   アンナから全ての話を聞いたヨハンは、全てを悟ることとなる。
   双子の母親の、フランツ・ボナパルタへの憎しみによって
   二人は生まれながらにして「なまえのないあくま」となっていた。
   名前を探しに西に旅立ったのはアンナ。
   赤いバラ屋敷で悪魔の所業を目の当たりにするが、

     「ここであったことは、全て忘れなさい
     人はなんにだってなれるんだよ
     怪物になんかなっちゃいけない」

   その言葉によって、アンナは悪魔に飲み込まれずに部屋に戻ってきた。
   一方、名前を探しに東に旅立ったのはヨハン。
   アンナも母親も引き止めることのできなかった「ヨハンおうじ」は、
   「絵本」という悪魔に飲み込まれてしまう。
   そして「怪物」になってしまったヨハンは、
   帰ってきたもう一人の「なまえのないあくま」の記憶をも飲み込んでしまう。
   そう、このとき既にヨハンはアンナを飲み込んでいたのだ。

     「君は僕で 僕は君」

   ヨハンは、全てを悟ったのだ。

     「目が覚めたんだ
      これまでたくさんの終わりの風景を見てきた
      でも、これが本当の終わりの風景だったんだ」

   ヨハンの名前を読んでくれる人は、もう既にどこにもいなかったのだ。

A6.完全なる自殺

   全てを悟ったヨハンは、完全なる自殺を図る。
   ヨハンの中の「悪魔」を知る最後の人物、フランツ・ボナパルタに「最後の風景」
   を見せ、彼とともに全ての記憶から消えてしまうこと。
   それは、完全なる「モンスター」になってしまったヨハンの、
   自らのアイデンティティを表現する唯一の方法。
   「なまえのないあくま」として自分たちを生んだ母親への、唯一の愛情表現。
   そして、「ヨハン/アンナ」という二人の人間の中に生まれた「悪魔」の人格
   への最終審判。
   多重人格者が、自らの中の悪魔の人格を消し去るために自傷行為に走るように、
   鏡の中に悪魔を見出した神様が、その眉間へ銃を向けるように、
   ヨハンは自分自身を完全に消し去ろうとしたのである。

A7.そして全てが終わる

   アンナがついにヨハンの全てを許す。
   ヨハンの存在そのものを、自らの中の悪魔の人格そのものを受け入れる。
   多重人格者が、全ての人格を受け入れて、
   全ての悲しみや苦しみをしっかりと自分のものとしてとらえるように。
   全てが許され、全てが受け入れられるのである。
   双子という特殊な二人の間に生まれた二つの相反する人格。
   その二つの人格が、ついに一つの人格として統合されるのである。

     「君は僕で 僕は君」

   そして
   最後にヨハンが病院を抜け出して向かった先は、、、

   もちろん、母親のもとであろう。

    Monster (1)Monster (2)Monster (3)Monster (4)Monster (5)Monster (6)Monster (7)Monster (8)Monster (9)Monster (10)Monster (11)Monster (12)Monster (13)Monster (14)Monster (15)Monster (16)Monster (17)Monster (18)もうひとつのMONSTER―The investigative report


1 Comment

  1. 私は逆に、全部を説明しないことによってどのポイントに読者に目を向けてほしいかを調整したのかなって思った。
    511キンダーハイムでなぜ大人子供全員が殺し合うことになり、ヨハンは生き残れたのか。個人的にこのエピソードが存在する意味は「511キンダーハイムはやばいとこでやばいことが起きた」じゃなくて「そんなやばいとこで生き残るほどヨハンはヤバイ」だと思う。だからまだ子供なのに大人までも彼に翻弄されちゃうんだなっていう結果のみを提示するほうがこの「ヨハンのヤバさ」を増幅させるし、どう生き残ったか不明なのもそのヨハンの意味不明なヤバさを明らかにしてるんじゃないかな(あとヨハンは作中「人間」ではなく「悪魔」なので、トリックを見せちゃったらそれは「人間の行い」になっちゃうし、私たち人間は「悪魔」がどうそれをやったかなんて理解できないんだから、そこは不明であるほうが理にかなってるのでは)。
    もちろんヨハンがどうやって悪魔になり、どう悪魔していたかということも大事だが、個人的に彼が悪魔になった原点(幼少期、ニナに記憶を受け継がれる)のが過程より重要だと感じるので(あとは彼の「悪魔さ」がどんどん大きくなっている状態を見せればいい)、時たま説明がないんじゃないのかなーと。
    たしかに説明ないなって思ったりしてもやもやすることもあったけどそれはそれでどこを見てればいいのかわかりやすかった気がする。なんで説明がないんだろって考えて逆にあぁこうゆうことかも、ってなって作品理解に繋がったりすると思うし。
    まそのせいではてなが積み重なって微妙な感じするのもわかる。
    もちろん一意見なんで間違ってる可能性もありますけどね笑

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