佐藤貴央@卒論指導

1年間指導してきた卒論生の佐藤貴央くんが、無事に卒論を書き上げ、無事に発表を終えました。
ということで、簡単ですが彼の卒論の内容について紹介したいと思います。

卒論タイトルは「系外巨大ガス惑星周りのハビタブルムーンの形成とその安定性」です。

論文要旨(by 佐藤貴央)

太陽系外惑星が発見されるにつれて、それらの中に生命居住可能(ハビタブル)な惑星は存在するのか否かという問題は重要なテーマとなってきている。そのなかでも、本研究では、系外巨大ガス惑星周りに存在していると考えられる系外衛星の生命居住可能性について考察した。系外衛星がハビタブルであるために必要な衛星質量の下限値が先行研究(Williams et al. 1997)によって見積もられており、ガス惑星の潮汐による熱フラックスを効果的に受ける場合は地球質量の0.12倍、効果的でない場合は地球質量の0.23倍の衛星質量が必要であると考えられている。そこで、本研究ではガス惑星がハビタブルゾーン内に存在した時、これらの質量を保持した衛星(ハビタブルムーン)の形成可能性や軌道安定性を複数の先行研究をもとに検証した。その結果、形成についてはその起源である周惑星円盤の温度構造から、衛星が形成される場合、岩石衛星になりやすいことが示唆できた。また、軌道安定性についても恒星からの潮汐力による影響や、ガス惑星のタイプII軌道移動の影響を受けることなく、ハビタブルゾーン内で安定して存在していられることが示唆できた。よって本研究から、ハビタブルゾーン内に巨大ガス惑星が存在した場合、その周りにはハビタブルな衛星が存在している可能性が高いことが示された。

卒論発表会での発表スライドを以下に載せておきます。

また彼の卒論のPDFファイルをこちらに置いています。
興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひご覧になってみてください。


さて、今回は僕にとって3人目の卒論指導となりました。

今年はとにかく「ハビタブル」をキーワードに、これまであまり研究が進んでいなかった天体(衛星・トロヤ群・スーパーアース)のハビタビリティを考えてみよう、ということで研究がスタートしました。
昨年度に引き続き、ふわっとした感じのテーマだったので、最初は一緒に勉強しながら手探りで研究を進めていくことになりました。

佐藤くんと議論していくなかで、卒論指導のかなり早い段階で「ハビタブルムーン」に注目することが決まり、ハビタブルプラネットについての基礎勉強を済ませたあとは、ひたすら先行研究の論文を読んでもらいました。

ハビタブルムーンの定義と存在条件、ガス惑星周りでの衛星形成プロセス、ガス惑星のタイプII軌道移動、ガス惑星からの潮汐による衛星軌道の進化、などなど・・・
いま冷静に振り返ると、正直ちょっとあり得ないぐらいのハイペースで大量の論文(それも多種多様な内容の論文)を読んでもらったことになります。

学部生で、これだけの論文を読み込み、理解し、そして自分なりにまとめるというのは、かなり大変なことだったと思いますが、本当によくがんばってくれました。

最終的には、これらの先行研究の結果を今回考えているハビタブルムーンに拡張し、その形成から軌道安定性までを大きなシナリオの中で議論し、その存在可能性を示唆する、というところまでたどり着くことができました。
ハビタブルムーンの形成と進化について一通り理解することができ、僕自身も指導者というより共同研究者として、非常に勉強になりました。
とても素晴らしい卒論になったと思います。


ちなみに佐藤くんにはさっそく5月の連合大会で今回の研究について発表してもらう予定です。
惑星科学なみなさま、どうぞよろしくお願いします。


さて、これまでの3人の卒論指導を振り返ってみると、まさに3者3様な感じになりました。

尾花くん:まずは研究手法(N体計算)を身につけ、それを使って何かやる。
上田くん:1つの先行研究に注目し、そこに新しいアイデアを加えて拡張する。
佐藤くん:大量の先行研究をもとに、大きなシナリオについて検証する。

いろいろな研究のやり方を卒論生と一緒に学んでいるような感じで、僕にとっても楽しい経験になっています。
来年はまた違ったアプローチで卒論指導を一緒に楽しんでいけるといいなと思います。

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