準惑星ハウメアのリング形成に関する論文が ApJ に accept されました。
“N-body Simulations of Ring Formation Process around the Dwarf Planet Haumea”
I. Sumida, Y. Ishizawa, N. Hosono & T. Sasaki, ApJ, in press.
arXiv: https://arxiv.org/abs/2005.06744
以下に論文の内容についての簡単なまとめを載せておきます。興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてください。
概要:
準惑星ハウメアは、リングを持つ唯一の太陽系外縁天体である。ハウメアのリングは 2017 年に恒星の掩蔽観測によって発見された。そのリングは、ハウメアの自転周期と 3:1 の平均運動共鳴を起こす位置にある(Ortiz et al. 2017)。ハウメアは三軸不等楕円体の形状をしており、その周囲の非軸対称重力場がリングの力学に影響を及ぼしていると考えられるが、リングの形成過程については解明されていない。
我々は、ハウメアの自転による分裂によってハウメアの 2 つの衛星が形成されたという説(Ortiz et al. 2012)に着目し、このモデルに基づいて以下のようなハウメア系形成のシナリオを提示した。まず、ハウメアから衛星サイズの破片が複数飛び散ったという状況を考える。ハウメア周囲の非軸対称重力場のため、ハウメアの近傍では物体が安定して存在できない。また、安定軌道にある物体のうち、ロッシュ半径の内側にあるものは、潮汐力によって破壊され、それがハウメアを公転することでリングになる。ロッシュ半径の外側に位置していた物体は、潮汐で軌道進化し、現在の衛星の位置まで移動する。
以上のシナリオのうち、本研究では、軌道不安定領域の外側かつロッシュ半径の内側に位置している物体が潮汐破壊され、リングになる過程を検証した。まず、三軸不等楕円体の周囲の重力場を計算し、時間変動する重力場を組み込んだシミュレーションにより、ハウメアを公転する物体が安定して存在できる領域を見積もった。その結果、非常に短いタイムスケールで 2:1 軌道共鳴より内側の粒子が取り除かれ、最終的な不安定領域境界はリング半径の 0.905 倍の位置となった。すなわち、ちょうど現在のリングの位置よりも内側で、物体の軌道が不安定となることがわかった。次に、三軸不等楕円体周囲を公転する完全剛体に対するロッシュ半径を解析的に導出したところ、剛体ロッシュ半径はリング半径の 0.71 倍になった。また、ハウメアを同体積の球に近似したときの流体ロッシュ半径はリング半径の 1.09 倍になった。解析的な計算により、ロッシュ半径の位置が現在のリングの位置付近になる可能性が示された。さらに、パラメータスタディとして、ラブルパイル物体の反発係数を変数とした N 体シミュレーションを行ったところ、多くのパラメータにおいて、ロッシュ半径の位置が現在のリングの位置付近になることが示された。
以上のことから、軌道不安定領域境界とロッシュ半径の間の領域にリングが形成されるという本研究のシナリオが正しい可能性が高いことがわかった。よって、本研究で提示したシナリオによって、リング形成過程を説明できる可能性があることがわかった。
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