J. M. D. Day et al., Science (2007)

J. M. D. Day, D. G. Pearson and L. A. Taylor, Highly Siderophile Element Constraints on Accretion and Differentiation of the Earht-Moon System, Science 315, 217-219 (2007)

月サンプルの親鉄元素の測定値から、月形成プロセスに制約を加えよう、という論文です。

○背景

地球と月は形成後に分化を経験しているが、レイトベニアのタイミングや影響についてはよく分かっていない

Highly Siderophile Elements (HSEs: Re, Au, Ir, Os, Ru, Rh, Pt and Pd) は惑星の初期進化を追うのに有用

地球マントルの HSE の存在度は metal-silicate equilibration から予想される値よりも大きい
 → high-pressure, high-temperature での equilibration では値を下げることはできるが上げることはできない
 → レイトベニアが起きた証拠

月の HSE についてはこれまであまりデータが無い

○本研究の目的

Apollo で採取した月サンプルと LaPaz (@Bolivia) の月隕石サンプルを用いて、月の HSE の存在度を正確に測定する

○結果

(1) 月のバサルトの HSE の存在度は地球の MORB の値よりも有意に小さい

(2) 月のバサルトの Re の存在度がのきなみ小さい

(3) “disturbed sample” と “undisturbed sample” とに区別できる

○考察

(2) から HSE の分化を支配していたのは fO2 ではなく fS だとわかる
(ここはよく分からない、気になるときは読み直そう)

(3) の “undisturbed sample” はあまり分化を経験しておらず、長期間 chondoritic な進化をしたこと、および 15% 程度の melting しか受けていないことが示唆される

(1) の存在度を月マントルでの存在度に外挿すると(外挿手法は地球の場合に使われるものを使った)月マントルの HSE の存在比は地球や chondritic value と同じになるが、存在度は地球の値よりも 20 倍から 40倍ほど小さい

○まとめ

月も HSE の存在度が小さいので giant impact での形成・分化を経験している

月の HSE は chondritic proportion だが low abundance である
 → レイトベニアは経験しているが、影響が小さい
 → レイトベニアの途中で地殻が形成し終わってマントルの HSE 進化が中断

・・・
というシナリオが示唆されるようです。

○メモ
187Re → 187Os(半減期:約420億年)
月のマントルのサンプルが手に入れば、もっと正確な議論が可能
レイトベニアは本当に必要なのか?今回の結果から確実に必要と言えるのか?

3 Comments

  1. >月をみるものさん
    それは何かのプロジェクトへの勧誘ですか? (^^;
    でも新しく月のデータが手に入れば、一気にいろんな問題が解決しそうだし面白そうですよね。

    時間があったら
     ○○○が手に入れば△△△が分かる
    みたいなものの一覧表を作ってみたいなあ。

  2. >それは何かのプロジェクトへの勧誘ですか? (^^;

    あえて、明言はしません(^^;)
    ぜひつくってやってください>一覧表

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