部分平衡化を考慮したHf-W年代測定法

Hfは親石性、Wは親鉄性の元素であり、182Hfは半減期900万年で182Wに放射壊変する。惑星のコア形成時に182Hf がマントルに、182Wがコアに濃集する性質を用いて、このHf-Wシステムはコア形成年代を示す時計として近年注目されている年代測定法である。この年 代測定法を用いて、地球の主な成長ステージが微惑星形成後10万年程度で終わり、月を作った巨大天体衝突が29万年で起こったことが示唆されてきた [Yin et al., 2002]。しかし過去の研究では、巨大天体衝突時に原始地球は完全に平衡化されて時計が完全にリセットされると仮定した計算しかなされてこなかった。そ こで本研究では、巨大天体衝突による平衡化の割合について検討し、不完全な平衡化を考慮した年代計算を行った。

まず、巨大天体衝突時に完全平衡化が実現される条件を定量的に見積もると、インパクターのコアが50cm以下の鉄粒子に分裂して地球のコアまでス トークス沈降していくことが必要であることが分かった。ところが、50cm以下の小さな鉄球粒がマントル中に高密度で存在する場合、それらの粒は全体で一 つの大きな流体としてふるまい、大きな波長のレイリーテイラー不安定を起こして、下部のマントルを平衡化せずにコアに落ち込んでしまう。そのため、過去の 研究で仮定されてきた巨大天体衝突によるHf-Wシステムの完全平衡化は、実現されないことが分かった。

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そこで次に、巨大天体衝突による不完全な平衡化を考慮した年代計算を行った。その結果、Hf-Wシステムから地球のコア形成の年代を決定するため には、巨大天体衝突の回数とそれらの平衡化の割合を定量的に定めることが不可欠であること、および1回の巨大天体衝突で、少なくとも2割以上の平衡化を引 き起こす必要があることが分かった。この2割以上の平衡化という条件は、巨大天体衝突で放出・蒸発される原始地球の体積が2割以上であるべきだという、巨 大天体衝突に対する制約条件と捉えることができる。

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各巨大天体衝突のリセット率と、そのときに求まる最終衝突の年代
巨大天体衝突の回数を、左から2〜10回でパラメータスタディしている

さらに本研究では、Hf-Wシステムを用いて火星の形成過程についての計算も行った。その結果、火星も1度は巨大天体衝突を経験している可能性が あることが示唆された。このことは、火星が原始惑星の生き残りであるという現在の常識を覆すものであり、火星の形成過程や火星の大気の起源について再考を 促す結果である。

*詳細はこちら*
Takanori Sasaki & Yutaka Abe, Rayleigh-Taylor Instability after Giant Impacts: Imperfect equilibration of Hf-W system and its effect on the core formation age, EPS, 59, 1035-1045 (2007) [pdf]

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