天才・鬼才・奇才。
若くしてステージでの演奏活動に見切りを付け、スタジオ録音に異常なまでに執着した、異色のピアニスト「グレン・グールド」。
彼の才能が最も強く発揮されたのがバッハのピアノ曲でした。
グールドは音楽家としてのスタイルのみならず、音楽解釈においても異色であり、バッハの伝統的な音楽に対して新しい解釈を次々と打ち立てました。
スタジオ録音における全てのテイクは新しい解釈の実験であり、1つの前奏曲やフーガについて10を超えるテイクを録ったと言われています。
そしてあろうことか、複数のテイクを組み合わせ、つなぎ合わせることによって最終テイクを作り上げるという荒技をやってのけたのです。
彼にとって、演奏は「完璧」な解釈を提供することこそが全てであり、その表現方法としてスタジオ録音を選んだのです。
こうして作成された(まさに「作成」されたのです!)彼の演奏は、それまでの伝統的な解釈を大きく揺るがす、全く新しいバッハの音楽でした。
グールドは、多様な音楽解釈の可能性とその必要性を、自らの創造的解釈の成功を通して我々に示したのです。
・・・と、ここまではめでたしめでたしなのですが。
グールドの最大の誤算は、彼の奇抜ともいえるバッハの新解釈があまりにも一般の人々に受け入れられ過ぎたことでした。
「伝統とは起源の忘却だ」(フッサール)の言葉の通り、バッハの音楽の原点が時とともに忘れ去られようとしていた中、過去の解釈にとらわれない自らの新解釈を提示したグールドの演奏は、本来のバッハの音楽のあるべき姿を見事に浮き彫りにしました。
そしてその演奏は、バッハ演奏の原点として位置づけられるようになったのです。
これ以降、バッハのピアノ曲はグールドの演奏を「絶対基準」として演奏・鑑賞・評論されることとなります。
特に「ゴールドベルク変奏曲」に関しては、グールド以外のピアニストによる全ての演奏は、グールドの演奏と比較されるためだけに存在しているといっても過言ではありません。
あらゆる演奏の行き着く先はグールドであり、あらゆる解釈はグールドの世界から逃れることができないのです。
なんとも皮肉なことではありませんか。
音楽解釈の多様性を追求し、その必要性を訴えてきたグールドは、自らの音楽が「絶対的」なものとなることによって、むしろ多様性を失わせる結果を生んでしまったのです。
もう一度バッハのピアノ曲に多様性を与えるためには、(現在のクラシック界にグールドを超えるピアニストがいるとはとても思えませんが)、いずれまた現れるであろう新しい天才に音楽解釈多様性の可能性を託すよりほかないのでしょう。
☆他の人の記事も読む☆
USHINABE SQUARE 〜クラシック・名盤・名演と消費、生活、趣味のブログ
まぁちゃんのクラシック音楽覚え書き
こんにちは。初めまして。
TBをありがとうございました。
グールドを超えるピアニスト、出現するのでしょうか?
彼のバッハ演奏が、500年後も聴かれ続ける対象になりうるのか?
こういうことを考えると、興味は尽きませんね。
これからも、よろしく、どうぞ(^_^)v
>miwaplanさま
コメントありがとうございます。
実は最近、グールド以外に注目しているピアニストがいます。
アファナシエフというピアニストです。
グールドとは全く異なるタイプのピアニストですが、凄まじい演奏を聴かせてくれます。
500年たってもグールドを超えるピアニストが出なかったら、それはそれで悲しいですよね。
とりあえず今はアファナシエフに期待です♪
こんにちは。
アファナシェフの演奏は、テンポが異常に遅いですよね。
その手法でイケる曲もあれば、?な曲もあったりします。
彼のブラームス、やっぱり変ってますけど、面白いです。
そうそう、彼は指揮もするんですよね。CDも何点かあるはずです。
そうなんですよね、あの異常に遅いテンポを受け付けない曲も結構あるんだろうなあと思いながらいつも聴いています。
ただ、一時期チェリビダッケの異常に遅いテンポの指揮にハマったことがありまして、それ以来遅いテンポの演奏に魅力を感じ続けています。
ブラームスは聴いたことがありません。
こんど機会があったらちょっと聴いてみたいです。
シューベルトのピアノソナタは聴かれましたか?
聴いてて死にたくなるような鬱々とした演奏がたまりませんよ。
指揮もするんですね。それは興味津々。
こんどタワレコあたりで買ってみます。
初めまして。わたしもグールドのゴールドベルグは好きなので、ついコメントしたくなりました。たしかに最近の方の演奏はグールドを意識しすぎですね。まんまコピーみたいな演奏で、どうかな〜と思うことしばしばです。
最近、高橋悠治さんのゴルトベルクがDENONから復刻されたので、
聴いてみました。アリア以外はとてもグールドに似ています。
しかもとても良い!
http://item.rakuten.co.jp/ebest-dvd/0000000655127/
’76の録音で、グールドの’81の録音より5年早いですから、
グールドは高橋を聴いている可能性大いにありと感じました。
グールドの’81の録音は彼の’55の録音とあまりに違うし、
高橋の’76の録音はグールドの’81の録音と似すぎ。
気の所為かな?
>mabo400さま
コメントありがとうございます!
高橋悠治さん。
紹介して頂いた古い録音は聴いたことがありませんが、最近の録音を聴いてイマイチだったので、そのイメージしかありません。
でもグールドよりも先に「グールド的」な演奏をしていたとなると、それは興味津々です。
今度できれば聴いてみたいと思います。
ちょっとドキドキ。
アファナシェフのシューベルトですが、クレストシリーズで出ている後期ソナタ集を聴いてます。
その中の第21番については先日私のブログにエントリしました。
いやあ、第2楽章が、もう完全にアッチ世界へマッシグラですね(^^♪
ブラームスのは同じシリーズで、間奏曲のが出ていますよ。
これもブラームスが晩年になってからの作なので、深遠な雰囲気がいっぱい。
>miwaplanさま
そうです、その後期ソナタ集!
あの雰囲気、たまりませんよね。
ブラームスとアファナシエフ、あまりイメージがわかないのですが楽しみに聴いてみたいと思います!