博士号取得後に遊星人(惑星科学会の学会誌)に投稿した “New Face” という自己紹介文を、一部改変して以下に転載します。(元記事のPDF)
大学院の5年間で行ってきた研究とその周辺の話題を簡単にまとめていますので、興味のある方はどうぞご覧になってください。
皆様こんにちは、佐々木貴教です。2008年3月に東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻で学位を取得し、現在は東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻で、学振PDとして研究をしています。大学院生としての5年間、指導教官の阿部豊先生をはじめ、共同研究をして頂いたたくさん先生方には本当にお世話になりました。ようやく学生も終わりプロの研究者としての第一歩を踏み出しましたので、皆様へのお礼も兼ねてここにご報告させていただきます。
私は大学院の5年間、とにかくいろんなことに手を出しました。純粋な理論研究からすばる望遠鏡を用いた観測まで、またその研究対象も惑星科学から数理生態学(!)まで、様々なことをやって楽しんだ5年間でした。短期間にこれほど多様な研究が行えたのも、全ての研究内容に対して、常に本質的なアドバイスを与え続けてくださった阿部先生のおかげです。まさに全知全能の神。世の中にはすごい人がいるものですね。
以下では、この5年間に行ってきた様々な研究をひと言ずつご紹介することで、私の自己紹介に代えさえていただきたいと思います。
まず大学院に入って最初に行ったのは、ハフニウム−タングステン年代測定法に関する理論研究でした。阿部先生に先行研究の論文を紹介していただき、それを理解するために最初の1週間で15本ほど参考文献を読みあさりました。こんなに必死に論文を読んだのはこれが最初で最後かもしれません。さておき、これだけ読んでも内容がいまいち理解できなかったので、阿部先生のもとに行くと「そう、よくわからないんだよ。だからちょっと研究してみてよ」と言われ、最初の研究がスタートしたのを懐かしく思い出します。その後、この研究はしだいに“先行研究にケチをつける”方向に進んでいったため、学会で発表しては叩かれ、論文を書いてはリジェクトされ、なかなか大変な目に遭いました。初めての国際会議は修士1年のLPSCでしたが、このときも発表終了後にH. J. Melosh氏に数分にわたる指摘・批判・反論をされ、何も言い返せずにオロオロしている様子を、玄田英典さんにばっちりビデオに録画されました。とてもよい研究者修行になりました。
修士1年の秋には、佐々木晶さんに誘われてハワイのすばる望遠鏡の観測に参加させていただきました。もともと学部4年生のときに、中村良介さんに観測データの解析手法について教えていただいていたため、即戦力として声がかかったのです。以前扱ったデータは冥王星のものでしたが、このときの観測ターゲットは、最近破壊されたばかりの「カリン」という名前の小惑星。小惑星に関しては正直知らないことだらけでしたが、プロとアマチュアの観測屋がお互いに得意分野を補完し合うという、この分野独特の絶妙の協力体制の下、にわか小惑星ファンとして楽しく研究を進めることができました。また、望遠鏡を用いた観測が、たくさんの方々の協力があってはじめて成り立つものであることも学びました。現在は観測の分野からはやや遠ざかっていますが、惑星科学という幅の広い学問を理解するうえで、一連の観測研究はとても有意義な経験になったと思います。関係者の皆様には、心より感謝しています。ちなみに、小惑星「カリン」の研究を誰よりも満喫されていた佐々木晶さんは、このときに生まれた娘さんに「カリン」と名付けられたそうです。「チャーシュー」くんや「メンマ」ちゃんにならなくてよかった、とホッと胸をなで下ろしたのは私だけではなかったでしょう。(※佐々木晶さんはTVチャンピオンで優勝したラーメン王でもあるのです!)
さて、ここまで惑星科学を理論と観測の両面から研究してきたわけですが、修論では一転、“数理生態学”という全く異なる分野に手を出しました。我ながら、阿部研の懐の深さを感じさせる驚きの研究テーマだったと思います。もちろん最初はほとんど知識ゼロからのスタートだったので、最新の論文など読めるはずもなく、大型書店で数理生態学に関する教科書を大量に購入しお勉強。まっさらな状態で“研究”ではなく“勉強”をするのは、それこそ学部1〜2年生以来のことだったので、なんだかとても新鮮な気持ちで楽しく修論に取りかかることができました。こういう気分転換としての研究もたまにはよいものです。ただ思い立ったのが修士2年の秋だったため、修論に関してはわずか3ヶ月ほどで学部の教科書レベルから最先端の研究内容まで突っ走るという、かなり無謀なものとなってしまいました。あの凄まじい忙しさはもうしばらくは結構ですが、困ったことに毎日脳がフル回転している感覚というのは意外と快感だったりもするもので、もしかするとまたそのうちに短期集中で何か変なことを始めてしまうかもしれません。その際はどうぞ暖かく見守ってやってくださいね。
そんなこんなで紆余曲折いろいろありましたが、最後の学位論文では一応自分の専門である惑星科学の理論研究に帰ることになりました。学位論文の内容については、「初期金星大気の流体力学的散逸」(遊星人)にその概要を載せています。よかったらご覧ください。学位論文の執筆期間中は自分でも気が付かないうちにストレスが溜まっていたようで、今思うと毎日のようにお菓子を食べまくっていました。あんな生活が体に良いわけがありません。博士課程が研究者の寿命を縮めることを、身をもって実感した数ヶ月でした。しかしこれだけ苦しんで学位を取得しても、「足の裏の米粒(取らないと気になるが、取っても食えない)」や「高学歴ワーキングプア」といった言葉通り、博士号取得者の就職難問題は深刻です。若い優秀な学生が研究者という職業に見切りをつけて去ってしまわないよう、一刻も早く解決していかなければいけない問題ですね。
さて最後になりますが、現在私は東工大の井田茂先生のもとで学振PDとして研究を行っています。しばらくは惑星形成問題にどっぷりと浸かる予定ですが、ふとしたきっかけでまた全然別のテーマに取りかかることがあるかもしれません。この“浮気性”が研究者として果たしてプラスに働くのかマイナスに働くのかまだわかりませんが、どのみちこれ以外の生き方はできそうにないので、今後も気の向くままに自由な研究生活を楽しんでいきたいと思います。今後も、オンライン・オフラインを問わず様々な方との交流を通して、様々な研究を行っていけることを楽しみにしています。
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