小惑星カリンの近赤外分光観測

天体表面の物質(レゴリス等)のスペクトルが時間とともに暗化・赤化する現象を「宇宙風化作用」と呼ぶ。小惑星が隕石の母天体であると信じられてい るにも関わらず、最も多く観測されるS型小惑星と最も多く落下する普通コンドライト隕石のスペクトルが一致していないという矛盾も、この宇宙風化作用に よって小惑星のスペクトルが変化したことが原因だと考えられている [Binzel et al., 2003]。宇宙風化作用の詳細なメカニズムについては、ナノメーターサイズの鉄微粒子が形成されることによってスペクトルが暗化・赤化することが原因だ と考えられており、最近 Sasaki et al. (2001) による微小隕石衝突を模したパルスレーザー照射実験によってその妥当性が示された。

一方、これまで観測されてきた小惑星は、形成から長い時間を経てすでに表面が風化しており、例えば小惑星イダのクレーター内部などの特殊な場所を除 いては [Chapman, 1996]、宇宙風化作用の影響を観測的に調べることは不可能であった。ところが最近、わずか580万年前に壊れて形成されたばかりの若い小惑星の集団 「カリン族」が発見されたのである [Nesvorny et al., 2002]。そこで本研究では、カリン族の中で最大の大きさを持つ小惑星「カリン」をターゲットに、すばる望遠鏡による近赤外分光観測を行った。


小惑星カリンのライトカーブ [Yoshida et al., 2004 より]

赤・緑・青それぞれが今回観測した位相に対応
(下の図の赤・青のデータとも対応)

観測データを解析した結果、観測時間ごとのスペクトルの間に明らかな赤化の度合いの違いが見られた。これは、カリンが2つの異なる表面(赤化した面 /赤化していない面)を持ち、そのスペクトルの違いが宇宙風化作用の度合いの違いを反映していることを意味している。また、カリンの風化した面のスペクト ルはS(IV)型小惑星のスペクトルと一致し、風化していない面のスペクトルはL6普通コンドライトのスペクトルと一致した。この結果は、カリンの新しい 表面(=普通コンドライト組成)が宇宙風化作用によって古い表面(=S型小惑星の表面)に変成したことを示唆しており、宇宙風化作用の影響を初めて観測的 に確認したものである。また本結果は、2つの異なった表面を一つの小惑星上で観測したという点においても非常に貴重な結果である。異なった小惑星どうしで 比較しようとすると、宇宙風化の度合いがその小惑星の年齢だけでなく、化学組成の違いや、軌道長半径の違いによる微小隕石衝突のフラックスの違いなどにも 影響を受けてしまうからである。


赤:観測データ(上図参照)

青:観測データ(上図参照)

紫:S型小惑星 Semiramis のデータ [SBN Data Set 52 Color]

緑:L6 普通コンドライト Paranaiba のデータ [RELAB Public Spectroscopy Database]

*詳細はこちら*
Takanori Sasaki et al., Mature and fresh surfaces on the new-born asteroid Karin, ApJ, 615, L161-L164 (2004). [pdf]

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