Saturday March 25th 2017

生命を宿す天体を探せ!

投稿日時:2015/04/01  カテゴリー:研究内容



はじめに

地球の生き物は繁殖を含む生活環のどこかで液体の水を必要とする。そのため「惑星表層に液体の水(あるいはそれに対応する物質)が存在できる」ことを、惑星が「ハビタブル(生命居住可能)」であるための条件とすることが一般的である。しかし当然これは生命を宿す天体に対する必要十分条件ではなく、大気組成や物質循環など、地球特有の性質も地球生命の発生・進化には重要であったと考えられる。一方で、地球とは異なる性質を持った天体上で、地球生命とは異なるタイプの生命が発生・進化する可能性も十分にありうる。

 そこで本記事では、太陽系内外の様々な天体について、多様な視点からそのハビタビリティ(生命居住可能性)を探っていこうと思う。


太陽系内天体1:火星

 生命を宿す可能性のある太陽系内天体で、真っ先に思い浮かぶのは火星だろう。現在は極寒で乾燥している火星だが、過去に水が流れたと思われる地形が至る所に存在し、以前は温暖湿潤な気候を持っていたことがほぼ確実と思われている。また近年の火星探査により、地下水の噴出によるものと思われるがけ崩れ(「ガリー」と呼ばれる)が発見されたり、火星の表面を削ったところ下から氷が現れたり、現在も地下に水が存在している可能性が示唆されている。液体の水を使って生活する「地球型生命」にとって、過去の火星は現在の地球と同じぐらいハビタブルな環境だったかもしれない。

 ところで、1996年8月に火星隕石中に「原始生命体の痕跡らしきもの」が発見されたことが科学雑誌Scienceに掲載され、大論争を巻き起こしたことがあった。今ではこの発見に対しては否定的な見方が強いが、この大論争をきっかけに、火星における生命存在の議論・探査が大きく進んだことは間違いないだろう。


太陽系内天体2:エウロパ

 生命を宿す可能性のある天体は、惑星だけではない。木星の衛星であるエウロパは、太陽系で最も有名な「ハビタブルムーン(生命居住可能衛星)」候補だと言える。

 エウロパの表面は分厚い氷で覆われており、太陽からの距離も遠いため外部から十分なエネルギーを獲得することはできない。このように一見生命とは全く関係の無さそうなエウロパが注目されている理由は、表面に広がる無数のひび割れと、そこから噴出していると考えられる「海水」の存在である。つまり、エウロパは木星からの強い潮汐力により内部の氷が溶け、「内部海」を保持していると予想されているのである。地球の深海生物のように、太陽の光を使わずに地熱によってエネルギーを獲得している生態系が、エウロパの内部海には存在しているかもしれない。

 さらに2014年9月には、エウロパ上で氷の層によるプレートテクトニクスの存在が示唆され、地球と同様のメカニズムによる物質循環が実現している可能性も出てきており、更にその注目度は高まっている。


太陽系内天体3:タイタン

 土星の最大衛星であるタイタンも、近年宇宙生物学の観点から非常に注目されている天体である。

 2005年1月に土星探査機カッシーニによってタイタンに投入されたホイヘンス・プローブが、タイタンの表層環境に関する驚くべきデータを送ってきた。タイタン上にはたくさんのメタンの湖が存在し、そこから蒸発したメタンが雲を作り雨を降らせ、地球と似た気象現象が実現していたのだ。水ではなく、液体のメタンが天体表層を循環しているため、もしタイタン上で生命が発生・進化した場合、地球生命とは全く異なるタイプの生命となる可能性がある。

 一方で、タイタンは地球以外で唯一分厚い窒素大気を持つ天体でもある。またタイタンのメタンを中心とする還元的な環境は、初期地球の環境に似ているのではないか、という指摘もなされている。すなわち、現在のタイタンは大昔の地球と同じ環境を持っている可能性があり、地球上での生命の起源に関する重要な示唆を与えてくれる可能性がある点でも、大注目の天体であるといえよう。


太陽系から太陽系外へ

 生命を宿す天体の探索は、太陽系内だけにはとどまらない。1995年10月、人類初の太陽系外惑星の発見が報告される。ペガサス座51番星の周りに、「Hot Jupiter」と呼ばれる、中心星のすぐ側を回るガス惑星が発見されたのである。その後約20年の間に、系外惑星は次々と発見され続け、2014年12月現在2000個近くの系外惑星の存在が確認されている。大きいサイズの惑星の方が検出しやすいため、地球サイズの小さな惑星の発見数はまだそれほど多くはないが、いずれは生命を宿す「第二の地球」も主要な観測ターゲットになっていくと考えられる。

 また、発見された系外惑星の中には、Hot Jupiterをはじめ、太陽系には存在しない「異形の惑星」たちも多い。多種多様な系外惑星の発見は、多種多様な生命の可能性をも示唆しているといえよう。


宇宙は地球であふれてる!

 系外惑星系における地球型惑星の存在率を調べる目的で、2009年3月にケプラー宇宙望遠鏡が打ち上げられた。宇宙に望遠鏡を持っていくことで、非常に小さな地球サイズの天体も検出が可能となった。そして打ち上げ後わずか数年で、我々は衝撃的な結果を得ることになる。

 2013年1月、一気に351個もの地球サイズの惑星候補天体が報告されたのである。そして最新の見積りによると、銀河系内の恒星のなんと半数近くに地球型惑星が存在していることが示唆されているのだ。さらに2014年4月には、ついに「ハビタブルゾーン(表層に液体の水が存在できる軌道)」に位置する地球サイズの惑星が報告されるに至る。

 わずか数年前まで、我々の問いは「この宇宙に果たして地球と似た惑星は存在するのだろうか?」であった。それに対して、ケプラー宇宙望遠鏡の出した答は「宇宙は地球であふれてる!」だった。そして今、我々はその一段上の問い、すなわち「地球と似た惑星たちに実際に生命は存在しているのか?」について考え始めている。最初に系外惑星が発見されてからわずか20年、人類の宇宙観・生命観は劇的に変化してきたといえよう。


フェルミのパラドックス

 系外惑星上に存在する生命自身を検出することはまだ不可能に近いが、酸素やオゾンなどを「バイオマーカー(生物存在の状況証拠)」として用いることで、その存在を間接的に捉えることは可能となりつつある。近い将来、宇宙に広がる多様な生命たちが次々と発見されていくことだろう。

 しかしここで、我々はひとつの大きなパラドックスに直面することになる。それは「フェルミのパラドックス」と呼ばれるもので、イタリアの物理学者エンリコ・フェルミ(1901-1954)が同僚とのランチ中に投げかけた疑問「Where are they?(彼らはどこにいるんだ?)」がきっかけとなり、提示された論理的矛盾である。このパラドックスの概要は以下のとおりである。

 地球に似た惑星は恒星系の中で典型的に形成されうるはずである。(さらに現在、我々は実際にケプラー宇宙望遠鏡の結果から、これが正しいことを知っている。)無数の地球型惑星が存在するのであるから、生命も無数に存在するはずで、知的生命にまで進化するものもたくさんいるはずである。このことは、「地球外文明はたくさんある」ことを意味している。一方で、これまで人類が地球外文明と接触したという証拠は皆無である。このことは、「地球外文明は存在しない」ことを意味している。この相反する論理的帰結を、フェルミのパラドックスと呼ぶ。

 このパラドックスを解くためのアイデアには様々なものがある。地球外文明は実際にたくさん存在しており、彼らは互いに接触を行っているが、たまたま太陽系がまだ彼らに見つけられていないだけである、という楽観的な解釈も可能である。一方、地球外文明と接触できるほどの高度な文明は短期間で滅びてしまうため、お互いに接触できるチャンスがほとんど存在しないことが接触の証拠がない理由である、という極めて悲観的な解釈もありうる。

 今後たくさんの系外地球型惑星が見つかり、たくさんの生命存在の証拠が見つかっていくことで、フェルミのパラドックスに対するひとつの答が示されることだろう。


おわりに

 自分自身の起源を知ることは、人類にとっての大きな問いのひとつである。しかし、太陽系や地球の形成・進化、そしてそこでの地球生命の発生・進化を論じることは、一回性の歴史を研究することに他ならず、その固有性と普遍性、偶然性と必然性を峻別することは困難であった。ところが、太陽系外の惑星が次々と発見されてきたことにより、いま状況は大きく変化し始めている。銀河系にあふれる無数の地球型惑星の存在が示され、地球のように海をたたえて生命を育む惑星が宇宙に充満する可能性、さらには、そのことにより生命の存在も相対化される可能性が出てきたのである。

 自然科学の次の大きな課題のひとつは、宇宙における生命進化の一般性・多様性の探求であることは間違いない。宇宙にあふれる多様な生命たちを探し出し、我々自身を相対的に捉え直すことで、近い将来「我々は何者か、我々はどこから来てどこへ行くのか」といった根源的な問いに対して、「哲学」ではなく「科学」をもって答えていくことができるようになるはずである。そんな日が来るのを、ぜひ楽しみにお待ちいただきたい。


「あすとろん」第29号に掲載された記事を一部改変して転載しました。


Leave a Comment