みなさんの中にも、村上春樹が大好きな方がたくさんいらっしゃることでしょう。
僕にとっても、村上春樹は好きな作家の1人です。
有名作品はだいたい読みましたし、彼の作品に心酔していた時期もありました。
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しかし、最近どうもしっくりいかない感じが続いていました。
特に中期以降の作品群について。
(「世界の終わりと〜」「ねじまき鳥」「海辺のカフカ」等々)
読んでいて面白いのですが、一方でなんとも言えない違和感というかある種の嫌悪感というか、とにかくもやもやした感情が残っていました。
そしてそれは、村上春樹を頂点とする「宗教的」とも言えるいわゆる「ハルキスト」たちの、無批判な村上春樹礼賛に対する嫌悪感にもつながるものでした。
そんな中、非常に興味深い新書を見つけました。
この新書を読んで、これまで心のどこかに引っかかっていた村上春樹に対する違和感が明解な形で了解されました。
詳しい論理展開は新書を読んでいただくとして、簡単に村上春樹の「方法」を述べると、
似て非なるものを無媒介的に結合させ、それを丸ごと捨て去ることによって、読者を思考停止状態に陥らせる
女性嫌悪(ミソジニー)に基づく、歴史の否認と記憶の抹殺によって、読者に癒しや救いを与える
というものです。
それは文学的表現の歴史そのものを根幹から裏切る行為であり、その効果を極めて意図的に利用している村上春樹に対して我々は無批判でいるわけにはいかない、というのが著者の主張です。
著者の論理展開にはやや無理のある部分もあり、また途中からは完全に左翼的な発言のオンパレードになっていて、ちょっと問題有りの新書ではあります。
ただそれでも、村上春樹という影響力の大きい作家のテクストを批判的に捉えることのできる、数少ない新書だと思います。
#もはや村上春樹に対しては、批判することすら許されないような風潮がありますからね
世界中のハルキストのみなさま。
もしよかったら「村上春樹論」を一読されてみてはいかがでしょうか。
自分の中で新しい村上春樹像が生まれるかもしれませんよ。
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佐々木さま
はじめて書き込みします、M@古本Tと申します。トラックバック、ありがとうございました。
私も、村上春樹のよい読者ではないのですが、昨今の「春樹礼賛(?)」というような風潮には違和感を覚えますね。ただ、いまの日本においては、村上春樹氏が物語作家として当代随一であることは確かではないかと思います。まあ、だからこそ、小森氏もこういった新書を世に出すことにしたのでしょうが。
>M@古本Tさま
コメントありがとうございます。
僕も全く同意見です。
漱石や鴎外などの歴史的作家のテクストが詳細に分析されることは多いですが、現代作家のテクストがここまで徹底的にいじりまわされるというのは、やはりそれだけ村上春樹の存在が現代の文壇において圧倒的であることを示唆しているのだと思います。
時代を代表する作家の作品を、多角的に捉えてその全貌を立体的に浮かび上がらせるためには、偏った意見や少数意見、あるいは自分の考えとは異なる意見も耳をふさがずに真摯に受け入れていきたいものです。
そういう意味で、この小森氏の新書はよい練習台(?)になると思いました。
初めまして。遅くなりましたが、トラックバックありがとうございました。
小森陽一氏の本については、私も佐々木さん、そしてMさんと同じように感じました。状況に対する小森氏の危機意識は理解するのですが、後半はやや生硬になってしまったようです。でも、色々と考える契機となりました。
「自分とは異なる意見も耳を塞がず真摯に・・・」。私もそうありたいと思っています。
>酔流亭さま
コメントありがとうございます!
確かに後半はもう少しうまい書き方はなかったものか・・・と思ってしまいますが、いつも徹底した姿勢を貫く小森氏ですから、しょうがないのでしょう。
誰もが考えるようなことを分かりやすく(=読者に媚びて)書いてある本を読んでも、やすっぽい安心感が得られるだけで結局自分の成長には結びつかないと思うので、こういう一癖も二癖もあるような本も適宜読んでいく必要があるだろうと考えています。
まあ、あんまりひねくれるのも困りものですけどねっ。