論文捏造と科学コミュニケーション

「理学系研究者のための科学コミュニケーション」という主題の集中講義を受けてきました。以下、メモ程度に雑感を。


「論文捏造・番組取材の現場から」
村松秀(NHK 科学・環境番組部 専任ディレクター)

いくつかの論文捏造事件をもとに、現在および将来における「科学」のあり方についてのお話。さすがは番組の取材を通して「現場」の空気を実感している村松さん、講演も非常に具体的で興味深い内容でした。興味のある方は「論文捏造」(村松秀:中公新書ラクレ)をご一読ください。これは名著です。

僕自身の「論文捏造」に対する考え方は、以前にも本ブログの中で

コラム「科学者の不正行為を防止するには」

で取り上げているのでそちらをご参照ください。基本的には今でも同様の考え方です。ただ、もう少し構造上の変革が必要かなとも最近は思っています。つまり、不正をするメリットよりも不正をしないメリットの方が圧倒的に大きくなるようなシステムを作ること、をもっと積極的に求めていく方がよいのかなと。

それにしても、そもそもこんなことを議論しなきゃいけないような現在の科学界の状況には、なんだか悲しくなりますね。。


「社会と科学の危うい関係」
松本三和夫(東京大学大学院人文社会系研究科 教授)

省略。


「理学系研究者のための科学コミュニケーション概論」
横山広美(東京大学大学院理学系研究科 准教授)

「科学コミュニケーション」の現状と、ぶち当たっている壁、および将来へ向けての手探り。まあこうなることは最初からある程度予想されていたことでしょうが、いずれにしても早い段階で壁を意識する方向に動いてきている点は非常によいのではないかと思います。

なんてことを、これまであまり「科学コミュニケーション」に関わってこなかった僕が書くのもアレなんですが (^^;

これまでなんとなくポジティブな感じで突っ走ってきた「科学コミュニケーション」ですが、やはりそうそう甘くはない。しだいに迷走の度合いを強めてきているようです。

そもそも「科学コミュニケーション」というものに対して、何とも言えない違和感がある、という(たぶん)大多数の研究者の感覚というのは、僕は結構正しい反応だったのではないかと思っています。だって、もともと我々研究者のコミュニティ内から自発的に出てきたものじゃないのだから。
なんか突然「科学コミュニケーションは大事だ」「双方向のコミュニケーションを目指すべきだ」という話が上から降ってきて、ついでにお金も降ってきて、新しい学問分野ができて、サイエンスカフェが各地で開催されて、高校生が大学に呼び込まれて、、、という感じで、カーニバル的に発生しちゃったものなんだと思うんです。
#この辺、当事者じゃないので間違ってたらごめんなさい。

個人的には、コミュニティの内側から自然と発生してきた「動き」でないと長続きしないし、大きな力にもなれないと思っています。なので、現在の「科学コミュニケーション」がひとまず立ちゆかなくなった後に、研究者側からの自発的な動きを受けて改めて再構築し直さないといけないんだろうな、といまは漠然と考えています。

・・・ということで、これからしばらくは迷走を続け、ますます大変な状況に陥っていくことも予想される「科学コミュニケーション」ですが、いずれ必ずよりよい形での議論が研究者コミュニティの方からも立ち現れる時期が来ると思うので、横山さん、めげずにがんばってくださいね。というか、がんばっていきましょうね。僕も自分に合った形でやれることはやっていきたいと思っていますので。とりあえず木曜日よろしくです (^-^)/

2 Comments

  1. Sasakiさん、おはようございます。

    人間が作り出すものは、きっと個人的なものも、つながりの中で育ててゆくものも、失われることを恐れず創ることと壊れることを体験することも大切なのかもしれませんね。
    繰り返される社会の「再構築」の中で・・残り続け、輝きを増す文学や音楽などを思うとき、そう感じずにはいられません。
    Sasakiさんの文章を読んで・・心に何か問いかける時間が余韻のように残る感じが好きです。ありがとう。

  2. >こころんさん

    「再構築」、まさにその通りですね。
    古典が、たくさんの人々によって何度も繰り返し消費・再生産されることによってはじめて古典となりうる、というのはよく感じます。

    もちろん文学や音楽だけじゃなく、ブログも書き手と読み手、あるいは今の自分と昔の自分との間で、何度も「再構築」を行っていくことで、より深く成長していけるものだと思っています。

    僕はまだまだ未熟者ですが、これからもこころんさんと一緒にいろんな「再構築」を楽しみながら成長していけるといいなと思います (^^)

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