再び行ってきました。簡単な報告と、今後の博士問題の見通しについてメモしておきます。
前回は小飼弾さんがゲストということでかなりトリッキーな交流会でしたが、今回は博士問題を真正面から捉えて具体的な解決策を提案・議論するという、かなりかっちりとした交流会になりました。
今回ゲストとして来ていただいたのは、Ph.D.取得者でありながら以下のような非アカデミックな経歴を持っておられる高井正美さんです。
【プロフィール】
1982年:
東京大学工学部計数工学科卒業。同年三菱重工業(株)入社。名古屋航空機製作所にて、航空機のフライトコントロールシステムの研究開発に従事。
1985〜90年:
スタンフォード大学大学院航空宇宙工学科に留学、Ph.D.取得。
1990〜93年:
マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務。東京オフィスにて、国内外の大手企業の事業戦略構築、組織改革等に従事。
1993〜95年:
日本AT&T(株)に勤務。マルチメディア事業部長として、日本におけるAT&Tのブロードバンドネットワーク事業を立上げ・推進。
1995〜2000年:
エシェロン・ジャパン(株)に勤務。代表取締役副社長として、日本におけるエシェロン社のLonWorksネットワーク事業を統括。
2000〜2003年:
(株)サイバールネサンスを設立、大手企業に対しインターネットビジネスに関する戦略コンサルティングを提供。
2003〜現在:
(株)インヴィニオの取締役兼CSO(Chief Solution Officer)に就任、大手企業の人材育成&事業戦略構築の同時実現を支援するプロフェッショナルサービスを提供。特に近年は、研究開発者の人材育成とR&Dプロジェクトコーチングに注力。
2008年5月:
(株)東京大学エッジ・キャピタルのベンチャー・パートナーに就任。
(参照HP:http://www.invenio.jp/how/consultant/09takai.html、http://www.ut-ec.co.jp/fund/senior_adviser.html#BP3)
講演は2部構成で、前半は高井さんのこれまでの経歴(人生)について、後半は博士問題の解決策の提案、でした。
第1部:高井さんの経歴〜Ph.D.の意味について
経歴からも分かるとおり、基本的にはいわゆる “マッチョ” な感じの方でした。Ph.D.に対する考え方も、専門的な知識や経験がどうという問題ではなく、単に地頭の良さを示すアンカーのようなもの、あるいは学位論文という大きな壁を越えたことへの自信を生むもの、という捉え方が根底にあるようで、Ph.D.を拠り所にアカデミックポストを探して右往左往している “負け組” 博士とはやはり違うなあ、というのが印象でした。
って、なんか妙に皮肉っぽく書いてますが(笑)、結局こうしたモデルマイノリティのサンプルをいくら集めても、マジョリティの問題を解決することは叶わない気がするんですよね。もちろん個人的には、こうして第一線で活躍されている方の話を聞くと元気づけられるし、とても楽しいのですが。。だからといって、苦しんでいるマジョリティ同士で傷の舐め合いをするような交流会は最悪だし。。何を学び取るか、何を議論するか、けっこう難しいところでした。
まあ、ここまでは高井さんの人生に触れる、という楽しみがメインだったので、本題は第2部です。
第2部:博士と企業をいかに繋ぐか〜Win-Winの関係は?
まず高井さんの話の要点をざっくりまとめると・・・
・企業は大きなイノベーションを誘発するための起爆剤として、問題設定&解決能力の高い博士号取得者に期待を寄せ始めている
↓
・博士と企業とをうまく結びつけるための「場」を提供したいが、果たして博士側のニーズはあるのか?企業側の期待に応えられるだけの優秀な博士はいるのか?(大学院でそういう人材育成がなされているのか?)
という提案&質問の形でした。この高井さんの提案に関しては、僕は現段階では全面的に賛成だし、一刻も早く「場」の提供を始めていただきたいと思っています。先日の連合大会でもポスドク問題のセッションで議論がなされましたが、アカデミックポストが無いのなら、非アカデミックな場でもいいので、どんどん可能性を提示してあげるべきだと思います。逆に言うと、第3者が積極的にこうした「場」を提供してあげないと、将来の閉塞感に押し潰されているポスドクたちには、とても自分の力で道を切り開いていくような元気は残っていないと思うんですよね。高井さんも言われていましたが「背中を押してあげる」ということの重要性は、かなり高いのではないでしょうか。
さて、ということでこの提案をすぐに実行に移せるよう、僕も少し人脈をたどりながらここ数ヶ月のうちになんらかの行動が起こせるといいなあと思っているのですが、忘れないうちにいくつか注意点を列挙。
・企業側のニーズを考えた場合、理系博士の求人は多いだろうが、文系博士の求人はほとんど無いかもしれない。結局最も悲惨な現状にある文系博士の問題解決には結びつかない?
・優秀な博士は企業側も欲しがるが、優秀でない(と書くと語弊がありますが、要は大学院で問題設定&解決能力を十分に鍛える環境を与えられなかった)博士には結局行き場が無い。これは当然といえば当然のことなのですが、大学院における人材育成の問題という観点から見ると非常に根が深い問題であり、一朝一夕に解決できないだけにとてもやっかいです。
・博士が安く買いたたかれる、あるいは青田買いされる可能性。世間知らずで将来に不安を抱えている博士たちは、企業側からすればいくらでも都合良く扱える存在です。ここはかなり注意しておかないと、完全な買い手市場になってしまい、対等な立場で博士と企業を結びつけることができなくなってしまう可能性があります。
・「研究」というものそのものの “カタチ” に関する問題。国立大学の法人化の際にも問題になりましたが、大学と企業との関係がexplicitになることで、成果主義や実利主義にはしる研究(研究者)がさらに増えることになるかもしれません。結局、日本の研究の “カタチ” が今のアメリカのそれと同じような状況になることが、果たしてサイエンス界全体としてプラスなのか?ということです。
他にも注意すべき点はたくさんあると思いますが、とにかくこうした点を考慮しつつも、なるべく早く今回の高井さんの提案を実際の形に仕上げられるよう、僕も当事者の一人として積極的に関わって行ければと思います。
最後に:現在の僕自身の「博士問題」の捉え方について
今回の交流会での講演とはあまり関係がありませんが、ちょっとまとめておきたいのでメモ的に。
この数ヶ月間いろいろ考えてきましたが、僕が現段階で「博士問題」について言えることは、大きくは以下の2つです。
1. 特別な個別の問題としてではなく、日本全体のワーキングプア問題やロストジェネレーション問題と並列に扱われるべき問題である。
2. 一刻も早く解決しなければならない問題である。
まず 1. に関してですが、バブルがはじけて就職氷河期がやってきてロストジェネレーションが生産された、という構図と、大学院重点化によってアカデミックポストへの就職率が相対的に激減し高学歴ワーキングプアが生産された、という構図は同じようなものだと思うのです。システム全体が構造的に変化するために生じた歪みを、ある世代が一身に引き受けている(引き受けさせられている)という点で、どちらもマッチョな自己責任論に押しやってはならない、みんなで議論すべき大事な問題であるはずです。
また 2. に関して、こちらもロストジェネレーション問題と全く同じように、とにかく一刻も早く解決しないと、次の世代(つまり負の遺産を背負わされていない世代)がやってきてしまってからではもはや手遅れです。ここ数年新卒の就職率がバブル期に並んだということで、表面上は就職難問題が解決されてきたかのように見えがちですが、もちろんロストジェネレーションにとっては何も問題は解決されていないのと同じことです。博士問題も今後10年もすれば、自動的に博士進学者は減り、その一方で団塊世代の教授陣がごっそりいなくなってポストが空き始め、表面上は解決された状況になるもしれません。でもそうなると結局割を食うのは、若いときにポストも無くお金も無く研究ができないまま年を重ねていった我々の世代(悲しいことにロストジェネレーションとほぼ同じ世代)なのです。
長い目で解決策を探ることも大切ですが、いまはとにかく、目の前で死屍累々の悲惨な状況に押し潰されている現在の博士課程学生〜ポスドクの世代を救うことを第一に考えなければいけないと思います。
ということで、なんか長々と書いてしまいました。あまりうまくまとまりませんでしたが、今後の博士問題を考えるきっかけとしてメモ的に書き残しておきます。
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