惑星科学を楽しもう!

大学のHPに2005年6月に掲載された記事「惑星科学を楽しもう!」を以下に転載します。
なお、写真付きで記事をご覧になりたい方は、お手数ですが「惑星科学を楽しもう!」をご参照ください。
 

惑星科学を楽しもう!
佐々木 貴教(地球惑星システム科学講座(阿部豊研究室)博士課程1年)
 

惑星科学史上最大の「発見」

「この宇宙には、太陽系以外にも惑星を宿す星が存在するのだろうか?」
「この宇宙には、地球以外にも生命を宿す惑星が存在するのだろうか?」

 きっと誰しもが一度は考え、そして夜空に想いを馳せたことがあることでしょう。大昔から人は、自らの存在を宇宙に問い続けてきました。我々は特殊な存在なのか、我々は宇宙の中で孤独な存在なのかと。

 1995年、そうした問いかけに対する1つの答をついに惑星科学は見つけました。太陽系外の惑星系の発見です。地球は「特殊で孤独な」惑星ではなかったのです。その後も太陽系外惑星は次々に発見され続け、2005年現在すでに150個を超える系外惑星が見つかっています。今はまだ観測技術の限界もあり、地球のような小さな惑星を見つけることはできませんが、今後の観測機器の進歩によって、いずれ「第2の地球」が発見されることはほぼ確実だろうと考えられています。

 惑星科学は世紀の大発見をうけて、今まさに、我々の新しい世界観・生命観を作り出そうとしています。
 

惑星科学研究者として生きる

 これほど夢があり魅力的な研究分野を、みすみす見逃す手はありません。ぜひたくさんの人たちに興味を持ってもらい、いろいろな形で惑星科学に関わって欲しいと思います。

 私は現在、大学院の学生として惑星科学の研究に携わっています。惑星科学を研究する、とは具体的にはどういうことなのか、ここで少しだけ詳しくお話ししておきましょう。

 まず、惑星科学は非常に「総合的な」学問です。惑星の形成を議論するにはその物理をしっかり理解しなければいけません。惑星の組成を知るためには化学の知識が必要です。将来地球に似た惑星が発見されれば、その惑星上での生命も研究の対象となるため、生物学もこれからは重要となります。さらに、望遠鏡による観測や探査機を惑星に送り込んで行う国家規模の研究だってあります。人脈の広さやプロジェクトをまとめ上げる能力すら求められることになるのです。

 実際に私がこれまで行ってきた研究も多岐にわたっています。パソコン上で数式をいじってシミュレーションを行った「理論的」研究もあれば、ハワイにあるすばる望遠鏡を用いて実際に天体の表面を調べた「観測的」研究もあります。またその対象も、惑星の形成だったり生態系の進化だったりと、様々です。

 惑星科学を研究するということは、このように非常に総合的で、一見大変そうですが、一度そのおもしろさを知ると二度と抜けられなくなるほどの魅力がそこにはあります。総合的学問であるということは、それだけ様々な分野の人たちと「語り合える」ということです。また常に新しいことに挑戦し、自分の世界を好きなだけ広げていくことも可能です。研究者として生きる上で、こんなに楽しいことはありません。

 このページを見ている人の多くは、将来大学院に進んで研究生活を送ろうと考えている人たちでしょう。私は自分の経験上、惑星科学がとてもおもしろい研究分野であることを知っています。もしよかったら、みなさんもこのおもしろい世界に夢を持って飛び込んできてください。そして共に新しい世界を開拓していきましょう。
 

研究の実際(1)〜すばる望遠鏡を用いた天体観測〜

 さて、漠然とした話も一段落付いたところで、ここからは実際の研究の内容・雰囲気について詳しくみていくことにしましょう。まずは観測的研究から。

 私は修士1年の9月に、ハワイのマウナケア山頂にあるすばる望遠鏡を用いて、「カリン」という名前の小惑星を観測してきました。小惑星というのは火星と木星の間にたくさん散らばっている小さな天体で、地球に降ってくる隕石の「巣」だと考えられています。小惑星は太陽系が形成された時の情報を保持している天体だとも考えられていて、その成分を調べることで太陽系形成の謎を解くことができると期待されています。

 観測的研究の最大の特色は、実際に大型望遠鏡を用いて天体の表面を調べることができるという点です。百聞は一見にしかず、という言葉をまさに肌で実感することができます。また、ハワイに行って、マウナケア山に登って、満天の星空を眺めて、という観光的な楽しみがたくさんあるのも魅力です。

 しかし、楽しいことばかりではありません。苦しみは突然やってきます。高山病です。すばる望遠鏡は標高4200メートルという、富士山の頂上よりもはるかに高い場所に設置されています。一般に望遠鏡は、空気が薄い場所の方が観測に都合がよいため、高い山の頂上や高地に作られることが多いのです。ある標高を超えると急に頭が痛くなり、意識が朦朧とし、ときには酸素マスクを使わないといけなくなる場合もあります(実際に、山頂の施設の中には酸素ボンベが常設してあります)。

 それでも、やはり直接天体を観測することは研究者にとって非常に魅力的なことなのです。たとえ苦しみながら徹夜で星を追いかけることになっても、そこには常に新しい発見が待っているし、新しい世界が広がっているのです。この苦しみと喜びのギャップこそが、もしかすると観測的研究の一番の魅力なのかもしれませんね。

 観測に対する研究者の欲は、尽きるところを知りません。現在、チリの高地(なんと標高5000メートル!)には「アルマ」という新世代の望遠鏡が作られています。この望遠鏡が完成すれば、太陽系外にある地球サイズの惑星を直接観測することが可能になると言われています。いよいよ観測的研究は、「第2の地球探し」へ向けて動き出そうとしているのです。

 これから大学院で研究を始めようとしているみなさんは、もしかすると第2の地球発見の歴史的瞬間を、惑星科学の研究の最前線で迎えることができるかもしれませんね。ぜひ楽しみにしていてください。
 

研究の実際(2)〜パソコンを用いたシミュレーションあれこれ〜

 さて、次は話題を変えて、パソコンを用いた理論的研究についてみていきましょう。理論と観測は惑星科学研究の大事な両輪です。(さらに「実験」も重要な研究手法ですが、私自身が実験に携わったことがないので、ここでは省略させてもらいます。あしからず。)

 理論的研究の特色は、とにかくパソコン一台あれば何でもできることです。パソコンの中で惑星を作ってみたり、天体衝突をシミュレーションしてみたり、生態系の進化や絶滅を追っかけたりと、アイデアと知識さえあればいろんなことが部屋にいながらにして楽しめます。また、過去に起こったであろう現象を再現したり、将来起こるであろうことを予測したり、現実の観測では見ることのできない世界をパソコンの画面上に映し出すこともできます。

 私は修士の2年間で、大きく2つの理論的研究を行いました。1つ目は、地球が形成される際に起こったと考えられている、巨大天体衝突に関する研究です。地球は形成の最終段階で火星サイズの天体による巨大衝突を何度か経験しており、この巨大天体衝突によってはぎ取られた地球の一部が集まって月が作られたと考えられています。私の研究では、巨大天体衝突はいつ起きたのか、それはどのような規模の衝突であったのか、といった問題を扱いました。

 それから2つ目は、生態系の進化と安定性に関する研究です。いろいろな惑星環境の中で、生物はどのように進化し、どのように安定化するのか、あるいは絶滅してしまうのか。この研究は一見惑星科学っぽくないのですが、前に述べたように、将来的に「第2の地球」が発見され、そこに生きる生命が研究対象になることを見越した上で、今から研究を始めています。(ちなみに、地球以外の生命を扱う学問を「アストロバイオロジー」と最近では呼んでいます。)

 理論的研究においては、1つ目の研究のように過去の現象を再現することも重要ですが、なんといっても2つ目の研究のような、将来を見越した研究を行うことが非常に重要になります。観測や実験は、当てずっぽうにやってもうまくいくことはまずありません。理論的研究による予測や知識が背景にあってはじめて、「大発見」が生まれるものです。

 大型望遠鏡を使うわけでもなく、観測的研究と比べると地味な感じがする理論的研究ですが、パソコン一台で過去へも未来へも自由に旅立つことができます。ぜひみなさんも一度その醍醐味を味わってみてください。
 

終わりに

「惑星科学研究」というものについて一通りお話ししてきましたが、いかがだったでしょうか?楽しんで頂けたでしょうか?もしかすると、楽しい話ばっかりで、少しウソっぽく思われた人もいるかもしれません。

 実は確かにその通りなのです。実際に研究をする立場になれば、いつも夢のようなことばかり言っているわけにはいきません。特に最近では大学の法人化に伴い、研究成果の社会への還元が叫ばれています。直接「役に立つ」研究、もっと言うと、「お金になる」研究でなければいけない、というのです。惑星科学は、なかなか「役に立つ」研究にも「お金になる」研究にもなれそうもありません。

 私のような一学生が時代の流れにケチをつけてもしょうがありませんが、私はせめて夢を語ることで惑星科学の存在意義を主張していきたいと考えています。惑星科学は、いつも人類の普遍的な疑問に対して答を出し続けてきました。月に降り立ち、火星を眺め、太陽系以外の惑星系を発見し、そしてついには「第2の地球」を見つけようとしています。これまでに手にした知識をみんなで共有すること、そして将来の夢をみんなで語り合うこと、そうしたことも「社会に対する還元」のひとつの立派な形だと私は思います。

 最後は少し研究紹介の趣旨からずれてしまいましたが、現在惑星科学の研究に携わっている人たち、そして将来一緒に研究に参加してくれる人たち、みんなへ。

「たくさん夢を語り合い、みんなで惑星科学を楽しみましょう!」

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