リレー講義「現代物理学」

京大3回生向けの教養講義であるリレー講義「現代物理学」で、惑星形成論を中心とする惑星科学の話をしてきました。
なにげに京大での初講義だったりします。(演習は除く)

講義資料と参考図書を以下に載せておきます。(※追記:講義レポートの中でいくつか質問が寄せられていたので、それに対する回答も載せておきます)



*寄せられた質問への回答*

Q1. ハビタブルプラネット上での生命の存在をどうやって確認するか?

A1. バイオマーカー、すなわち生命の存在を示す間接的証拠を観測することで確認します。惑星形成理論に則ると酸素リッチな大気を持つ地球型惑星は自然には作り難いので、例えばオゾン(O3)が観測されれば、それは光合成をするナニモノか(=たぶん「生命」と呼んでよい)の存在を示すことになります。

Q2. ハビタブルプラネット上の生命とどうやってコンタクトを取るか?

A2. おそらく適当な(「人工的」なものだとわかるような)電波信号をその惑星に向けて集中的に飛ばして、彼らに地球生命の存在に気づいてもらい、再び何かしらの信号を返してくれるのを待つしかないでしょうね。もちろん相手も知的に十分進化した生命でなければ、実現しない方法ではあります。どう見てもSFのような話ですが、実は「SETI」というプロジェクトでは随分前からこのアイデアを実際に実行しています。

Q3. 惑星形成に関係するN体計算はどの程度繁雑なモデルを解く必要があるのか?

A3. 解くべき式は基本的に万有引力の式だけです。ただしよく知られているように3体以上の重力相互作用は解析的に解けないので、数値計算に頼ることになります。全天体は自分以外の全天体と重力相互作用を及ぼし合うため、N体計算ではNの2乗個の相互作用を解く必要があり、Nが増えると計算量が急激に増加します。

Q4. N体計算に必要な計算機パワーはどの程度か?例えば京コンピュータなども使う必要があるのか?

A5. 例えば重力多体問題に特化した計算機(GRAPEと呼ばれる)を用いると、演算性能としては GFLOPS@90年代〜TFLOPS@00年代 が実現されてますが、これらを用いてもローカルな領域で微惑星の集積合体を計算するのにざっと一ヶ月とかかかります。また、実際に京コンピュータを用いて太陽系全体のグローバルなN体計算を行おうとしている人もいます。

Q5. ガス惑星が系に3つ以上あるとなぜ軌道不安定が起きるのか?

A5. 数値計算により、ガス惑星が2個の場合と3個以上の場合で軌道安定条件が大きく異ることが明らかになっています。惑星系のパラメータと不安定が起きるまでの時間の関係についてはある程度わかっていますが、そもそも3体以上の重力相互作用はカオス的であるため、解析的に不安定の理由を説明することは(おそらく)不可能だと思います。


*参考図書*
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惑星形成論の全体像がコンパクトにまとめられた良書です。微惑星の暴走成長・寡占成長、ジャイアントインパクトによる月の形成など、惑星形成の様々な謎をN体シミュレーションによって解き明かしてきた著者自身によるまとめ本。惑星が形成される過程を一通り理解することができます。本格的な惑星形成論の教科書を読む前に、まずは本書でその全体像をざっくりと把握しておきましょう。


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理論屋さんと観測屋さんが、互いの得意分野を出し合って仕上げた一冊。クオリティ高いです。一般向けの書籍なので専門的な難しい内容はなるべくカットして書かれていますが、それでも系外惑星の理論と観測について最先端の話題はほぼ全て網羅されており、一通り勉強するのにはぴったりの本だと思います。天文に詳しくない方は、まずは本書から読んでみましょう。

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