若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 城繁幸(光文社新書)

若者たちよ、誇りを持ってレールを降りよ。
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「年功序列」という未だに日本社会の根底にのさばる「昭和的価値観」を徹底的に分析・批判し、そこからの逃走と闘争を全力で応援する一冊。タイトルはややミスリーディングですね。なぜ若者たちが3年で辞めるのかを論じる以上に、むしろ3年で辞めることを奨励する論調になっています。読み終わる頃には、衝動的に年功序列というレールを降りてしまう人が続出する。かもしれない。


まず現実を見ておきましょう。やや古いデータですが

その数たるや、大卒入社三年以内で36.5パーセント(2000年)。実に三人にひとりは辞めている計算になり、しかもその数字はまだまだ伸び続けている。

驚くべき数字ですね。2008年度の離職・転職率はどれほどなのでしょうか。

こうした離職・転職の率の高さに対する、上の世代からの批判としてよくあるのは、「わがまま」「忍耐不足」といったものでしょう。ところが彼らは、この「わがまま」「忍耐不足」を生んだ原因が企業自らにあることに気がついていません。ここが現代の企業ー若者間のミスマッチに対する大きな原因のひとつです。

少し詳しくみていきましょう。

かつて、日本企業の人材採用に関する考え方は、「新卒・一括・ところてん」の三語で表現することができた。文字どおり、「なんでもそつなくこなせるタイプの人材を、新卒で本社が一括採用する」ことが基本方針だ。(略)ところが、1990年代後半から、大企業を中心にこの状況に変化が起きる。バブル崩壊後の長く続く不況で、企業の多くは新卒採用数を大幅に縮小せざるをえなかった。(略)もう「なんでもやります」的な人間はお呼びではない。

こうした状況を受け、企業は若者に対して個性や専門性を要求するようになります。このことは近年急増した「エントリーシート」による選抜方式を見ても明らかです。若者は就活を通して「自分探し」を行うことを要請されるようになったのです。ところがその一方で、年功序列という企業の体質は未だにほとんど変わっていません。

さてその結果、どういうことが生じるでしょうか。

若者は「自分探し」を通して、自分の個性や専門性に応じた職を求め、就職先を選びます。ところがいざ就職してみると、年功序列の下端に位置する若者に個性や専門性を必要とする仕事は回ってきません。ここに若者と企業の間のミスマッチが生じているのです。そしてこの現状に失望した若者は次々に会社を辞めていく・・・。

なんとも皮肉な結果です。企業は自らの首を絞めているようなものなのですから。


さて、この皮肉な状況を生み出している最大の原因は、もちろん昭和的価値観の大ボスである「年功序列」システムです。ところがこのシステムの問題点は、若者が3年で辞めるという皮肉な状況を生み出していることにとどまりません。もっと大きな問題が、日本社会の底で大きな口を開けて待っているのです。

それは、年功序列システムが、もはやすでに機能不全に陥っているという現実。

派遣社員を用いたり、若者の採用数を減らしたり、リストラで強制的にスリム化したりすることで、なんとかシステムを維持しているというのが現状です。もはやそのレールはいつ途切れてもおかしくありません。上の世代が、いつ爆発するかわからない爆弾を下の世代に手渡して、必死に逃げ切りを図っているような状況なのです。

筆者曰く

年功序列制度の本質とはなんだろう。ちょっと言葉は悪いが、それはひと言でいうなら “ねずみ講” だ。



こんな不自然な年功序列制度が未だに続いているのには、いくつか理由があります。まず、いったんこのレールから降りてしまうと、再び別のレールに乗ることが極めて困難であるということ。そして、年功序列的考え方と非常に相性の良い、日本型教育システムに国民が毒されているということ。こうした現在の社会システム・教育システムを根幹から見直さないことには、自然な形で年功序列制度を解体することは叶わないでしょう。

そこで筆者は最後に、若者たちに対してエールを送ります。最後にババを引かされるぐらいなら、思い切って早めにレールを降りろと。レールに沿わずに自らの道を生きろと。そして、昭和的価値観を振り払い、失われた動機を取り戻せと。

社会がこのまま変わらなければ、割を食うのは若者です。若者はなぜ3年で辞めるのか?それは彼らが、目の前に迫った「危機」を肌で感じている結果なのかもしれません。

それでもあなたはまだ、そのレールの上を目をつぶったまま走り続けますか?

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2 Comments

  1. はじめまして、私はインドネシアの大学で日本語を勉強している学生です。ササキさんのブログはとても興味深くよませてもらいました。ありがとうございます。私は授業で日本会社の年功序列について調べています。そこで、ササキさんにお聞きしたいことがあります。
    ブログによると年功序列会社には勤続年数に応じて賃金を上昇させると書いてあります。これは本当ですか。どう思いますか。
    会社でもう長い間働いていますが、年齢は新しい社員より若い社員がいますか。もしいるならそれは問題ではありませんか。
    次は、ササキさんは年功序列がたちんぎんをさんせいですか。どう思いますか。
    私の日本語はまだまだ上手でわありません。たぶん間違えているところもたくさんあるとおもいます。読みにくくて、すみません。
    お忙しいと思いますが、どうぞよろしくお願いします。

  2. >マリアさん

    コメントありがとうございます!
    日本語や日本の社会に興味を持っていただき、嬉しいです。

    >ブログによると年功序列会社には勤続年数に応じて賃金を上昇させると書いてあります。これは本当ですか。どう思いますか。

    年功序列システムは、正確には「勤続年数」ではなくて「年齢」に応じて賃金が決まるシステムです。
    つまり、例えば22歳から5年間働いた27歳の社員よりも、入社1年目の30歳の社員の方が、給料が高くなるシステムなのです。
    これは明らかに問題が多いシステムですよね。

    >会社でもう長い間働いていますが、年齢は新しい社員より若い社員がいますか。もしいるならそれは問題ではありませんか。

    年齢の高い新入社員が入社してきたら問題か、ということでしょうか?
    これは年功序列システムの最大の問題でしょう。
    年齢だけで賃金が決まるシステムなので、会社としては常に若い社員を取りたがります。
    年齢の高い社員を新しく採用することは、会社にとってコストが高くなるだけで、メリットが無いからです。
    つまり、そもそも会社は年齢の高い新入社員をあまり採らない傾向にあります。
    これは以下の点で問題です。(↓次の質問の回答)

    >次は、ササキさんは年功序列がたちんぎんをさんせいですか。どう思いますか。

    反対です。
    上で書いたように、会社にとっては年齢の高い社員を採用するコストが高いので、年を取れば取るほど就職するのが難しくなります。
    つまり、年功序列システムは、転職するリスクが極めて高いシステムなのです。
    そうすると、若いうちに就職してそのまま同じ会社に勤め続けるしか、生きる道がありません。
    これは労働者にとって非常に不利なシステムです。
    また、個人の自由な生き方を尊重していないシステムだとも言えるでしょう。

    >私の日本語はまだまだ上手でわありません。たぶん間違えているところもたくさんあるとおもいます。読みにくくて、すみません。

    いえいえ、素晴らしい日本語ですよ!
    日本の社会について、きちんと日本語で勉強されていることに感動しました。
    また質問があったらいつでもご連絡ください。
    メールで質問していただいてもいいですよ♪
    Email:mail@sasakitakanori.com

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